黒歴史の継承者 2
「……嘘はついてないわ。ただ、あなたにその手を汚させるのが教師として絶対にしてはいけないと言うことだけ分かっていたから止めたの」
銃を下ろし、彼女はこちらに歩み寄る。
「別に殺していい人間ですよ。あなたのように変われる人はいる。別に人間が変われる存在じゃないと否定はしません。……でもコレはそうじゃない」
銃を下ろしたのであるなら、僕はその手をスキンヘッドの男に戻すだけだ。
「それに僕は魔王、魔族の王。同族が同族殺して今更何もありませんよ」
実際は違う。『魔族』と『魔物』の差は知能。罪の認識ができるし、中には殺したがらない魔族だっていた。
だが、僕は『魔物』に近いところにある。時に理性を失い、一歩間違えて大量虐殺さえ起こそうとした。なら、ここで変わろうとした人間より、変われない僕がこの男を殺すのに適任だと思っただけだ。
だけど、ぐいっと肩を引っ張られ、そして彼女は僕を平手打ちする。
「……それでも、決めたの」
そこでかなり弱々しい声が、彼女の口から聞こえる。
「それでも、葉坂高校の生徒であるうち、私の目が黒いうち、私が教師であるうちは……生徒にそんな事はさせないと」
手を離し、視線は再び男に向く。
「…やっぱり、『ボス』の命ではないわよね? ……私が知るあの男は」
そして辺りを見て目に怒りをあらわせ、
「……子供に、こんな事をさせない男よ!」
銃口を男に向ける。すると、
「……く…くく、くくくくはははははははは!!」
息が整ってきたのか笑いだす。そして、手に何かを持っていることに気づく。
「『消しとべ!!』」
それは魔法だった。砲弾のように放たれ、寸前で魔法壁で防御したが、その間にそいつは距離をとっていた。
「ははははは!! そんなのもうどうでもいい!! この力があれば俺がアルネスの新たなボスに、この世界の王になれるんだからな!!」
それは子供が使ってた杖とは違い指輪。それもかなりの魔道具だった。
「いいかオンナー!! テメーは黙って俺の女として黙って従っていればいいんだよ!」
無詠唱で使える魔法は危険だ。それを知る僕は前に出ようとしたが、それを坂波は止めた。
「……コレはもう人智を超えた。あなたじゃ無理よ」
しかしその手を退けない。
ならば、と手をかざすが、
「大丈夫」
彼女はその手を掴んだ。再び彼女の顔を見ると、彼女もこちらを見ていた。表情は……笑みを浮かべていた。
「あの程度の超えなら、私も負けてないから」
そして手を離し、彼女は両手を左右にかざした。