武士 2
「……よし終わったな」
辺り一面、ガキがバタバタと倒れている。一が五人、オレが六人、そしてシルとノムが二人。
そして傘木たちは、倒れたガキを安全な場所に運んでくれたようで、半数は隅にいた。
そして同時、傘木たちがきた方と逆から壁の破壊音が轟き、
「……なんだ終わってるのか」
と、いつぞやの筋肉男が顔を覗かせた。
「おお、銀斧!」
「ゲッ……」
「皆さんご無事ですか!」
男を押し除けカナコが駆け寄る。そしてそれぞれのかすり傷等を癒し回る。
「マオさまは!?」
と今度は細身の女が焦った顔で現れ辺りを見回すが、まあ煤野はいないとわかりがっくしと肩を落とす。
そしてメガネの槍持ち男も入ってきて、最後に現れたのは意外な奴だった。
「……げ」
「アッハッハ! それはひどいなあノブキ」
それは今日、同クラスのはずなのに姿を見せなかった女『椎倉 愛花』だった。
「ここまで案内したんだから、感謝してもいいと思うなー私!」
「お前だと素直には喜べねーんだよ」
あい変わらず何考えているかわからないが、まあ今日は裏はないことははっきりしている気がする。
オレはへたり込み、いつの間にか消えた刀を持ってた手をじっと見ている。
あの刀の名を、オレはまだ知らない。
だが、知らないともっと力が出ない気がする。
ふと、背中に何かが覆いかぶさった。
「……貧乳」
「うっさい」
綺紀だとわかりオレは気を抜く。気を回して一が全体の状況説明を詳しくしてくれているためオレは今、ゆっくり休むことができている。
温もりがあり、ついウトウトとしてしまいそうだが、そこまで気を抜く気はない。
「……暑いから離れろよ」
「いやよ」
珍しくはっきり言われ、オレは仕方なくそれ以上は言わない。
どこからまた襲われるかわからない。オレは今、そんな非日常にいる。だがそれは湧磨とある地点から覚悟したことだし、オレはアイツと共に強くなる気持ちで戦ったんだ。
オレの知る中で、手合わせしなくても強いとわかるやつのそばで強くなる。それはいつか、また来るであろう奴との対峙のために。そしてアイツの抱えている事を共に背負うために。
人を殺すことに躊躇いはないが、アイツはそれをしない。だからオレもしないし、そのための強さも求めている。
一だってそんなんじゃないか、そう思う。アイツは何かを抱え、そのヒントを湧磨から得ようとしているように見える。
だからオレは、アイツは、互いを『悪友』と呼ぶ。利用して、利用されて、時に切り捨てる時に後腐らないように。……そして、時に理由を考えず手を貸す為に。善とか、偽善とか、そんなものを必要としない関係が、今のオレたちだ。
だが、オレは綺紀の手を掴む。
「ちょ!?」
「……キキ、オレさ」
確証などないが、きっとオレと綺紀は前世で一緒だったんだ。そしてオレは彼女を守る為に強くなろうと努力していたはずだった。だが負けた。
一度離した手を、こうして今握れている。ならもう離さない為に、オレがすべきなのは––––
刹那、何か嫌な予感が全身をめぐる。
「みんな壁に走れ!!」
言葉と同時、オレは綺紀を巻き込み後方に飛んでいた。
そしてオレがいた位置に、極太の『光線』が包んだ。その周囲に爆風を放って。
「な、なに!?」
一にかばわれた更識が声を上げ、あたりではかすめただけでかなりの被害を受けていた。それは傘木や煤野妹、その従者も例外なく。
そして光が収まり立ち込める煙に目が行きそうになるが、それよりももっと、恐ろしい現実がそこにはあった。
「……うそ、だろ?」
オレの言葉に一斉に視線が光線の先に向く。
凹んだ壁に押しつけられた人の影。煙が収まるにつれてはっきりする姿は––––意識がはっきりしていない湧磨だった。
そして放たれた元に視線を向ける。煙は晴れ、そしてそこには神々しい剣を持った、一人の男。
そいつはあの湧磨に一撃喰らわせたのにも関わらず苦い顔をし、そして叫んだ。
「…よくも、よくも俺に忌々しい力を使わせたなあああああああッ!!」