『黒騎士』
「ねえユウマ、『白馬の王子さま』って、ボクのところにはきてくれないのかな?」
「はあ?」
いつも聞かせてくれる異界のお伽話を終えて、ボクは呟き、彼は意外そうな声を上げた。
「……お前が乙女じみた感想を言うとは、今日は珍しくおっさんに怒られたか?」
「なんでそうなるの!?」
彼は少し唸って、
「まあ確かにお前は魔王の娘、お伽話なら悪役お姫様だな」
「そっかー」
わかっていたことだけど改めて他の人の口から聞くと少し残念な気がした。
『魔王の娘』、それだけで守ってくれる人はきっといなくなる。とくにボクは強すぎて誰も心配しないし、むしろそれでも下克上を狙う奴もいる。
夢は夢のままでしかないのだとボクは思い、彼に笑みを向けて、
「ま、ボクには必要ないからね!」
と強がる。
そうだ、守られるより守る側でいい。少なくともボクは彼を守る側にいられればそれで––––
「いや、そうとも言い切れないぞ?」
突然ユウマは口を開く。自信満々に。
「いいかマオ、お姫様には騎士、王子と登場するが、逆に敵になるやつを想像してみろ」
「……?」
いまいち言いたいことがわからず首を捻ると、ユウマはニヤリと笑う。
「そうだなー。例えば『暗黒騎士』とか『黒騎士』ってどんな印象だ?」
彼の問いに、今まで彼が話した内容を踏まえて答える。
「悪いひと!」
「そう!」
彼はさらに笑う。
「でもなマオ、なんでそいつが悪く見えるかといえば、それはよく敵にいるから悪く見えるんだ」
「何が言いたいの?」
まだよくわからず聞き返すと、彼はパッと手を広げる。
「つまり魔王は敵側、黒騎士も敵側。つまり黒騎士は魔王の味方だ!」
「!!」
今にして思えばただのこじつけだった。でも当時のボクはそれを何か希望めいた感じに思い、彼に目を離さずに黙って聞いていた。
きっとここから彼は呪われた。ボクと言う、呪いに。
「つまり魔王の娘は悪側の姫! ならその騎士こそが白馬の王子ってことだ!」
嬉しかったんだ。いまだ人間をやめれなかったボクにとって、そう言う存在がいると知ったことが、すごく、嬉しかったんだ。
「まあお前は周りが敵だしな。……だから俺が」
その言葉を言わなければ、きっと彼はボクと繋がりを今も持つことはなかっただろうな。
「俺がお前を幸せにする『黒騎士』になってやるよ!!」
だけど、その言葉を今も、ボクは、彼は、忘れていない。