理解して怖いこと 3
「あなたは––––」
すかさず男は懐に忍ばせた短刀を斜めに一線。
後方に飛び、しかしさらに左からも刀。右、左、足蹴り……。
見た目の年齢とは違い、明らかに戦闘に手慣れているその動きに私は驚く。
戦闘能力には自信があった。幼少から一と死と隣り合わせで生きていき、その間で独自の戦い方を確立し、そこいらの兵より強いとさえ自負していた。
だが目の前の男は、見ただけで次元が違うことを理解する。あの夜とは明らかに雰囲気が異なり、その一つ一つの動きだけでも息をのむというのに、この男が纏う気は、勝てないと実感するには十分すぎた。
「......爪を隠していた、ということですか」
「知る必要はない」
元々会話など無意味。男はただひたすら攻撃を仕掛ける。奥の手を隠して。
今は逃げるしかないだろう。私はそう思う前に踵を返そうとした。
だからとて逃げられない相手ではない。相手はそこまで執念を燃やすことはないのはわかっていた。
大丈夫! 信じているから!!
「......」
しかし止め、腰に隠したナイフを取り受け止めた。
「!?」
意外とばかりに男は後方へと飛び、訝しむ。
「...今、なぜ逃げる体勢を止めた?」
「......それは」
私はさらに一本、彼と同じ両刀構えに、
「私は執事。お嬢様の命を狙うとわかっていかせるわけにはいきませんから」
「なら死ね」
既に懐まで男は近付き、既に短刀は首まで来ていた。
反応できなかったわけじゃない。ただ『相手が上手』だっただけだ。
その刀が届く前、側面の壁が吹き飛んだ。
その瓦礫がそのままこちらに飛ぶため互いに距離を置くように飛びのく。
壁は円のように崩壊し、土煙から人影が現れた。
そしてその影は、この場に似つかわしくないほどのんきな声を上げるのだった。
「どーもー、演出家兼ヒーローでーす」
『平和湧磨』はニシシッと笑っていた。