『策士』か、『うつけ』か 3
「まさかユウマが外野なんて......」
「ま、あなたはあとで覚悟していなさい」
なんでだろう、外野でこうも殺気と悲哀の念が来るんだろうか。まあいいだろう。
どうやら信木が相手の外野のようで、本人はひとまずなでおろしているが、板挟みになった柴谷はご愁傷さまだ。
「ハジメ、頼むぞー!」
「ああ、善処するよ」
先手は沢上が、紳士的に、あえて更識にやさしく投げる。難なくキャッチするが彼女は不満を顔に出す。
「ちょっとハジメ、いくら何でも私をなめてるの!」
と思いっきり投げ返す。軌道はいい、が、
「そうじゃないよ」
と沢上は片手で受けると、そのまま軌道を変えるように体を一回転させて、
「ただ、一回は一回さ」
とすました顔に似合わずにボールは、比べ物にならない速さで再び更識に―――
「足引っ張る気なの!」
彼女の腹部に向かうボールを、麻央が片腕で受け止めた。多分、麻央が受けなければアウトだっただろう。
麻央はため息をつく。
「足引っ張るならあなたもう外野いって。あたし一人でいいから」
ブチっと、何か切れてはいけない音がした気がした。
「......別に~、私とれたし~、邪魔しないでよね~」
「ハハハ、それはごめんなさいね~」
あ、これ修復できないかも、と俺は雲行きが怪しい現状にため息をこぼす。
「...ま、あたしのライバルは......!」
今度は麻央が強く投げる。まっすぐな軌道で、優華に向かう。
彼女はというと、少しけだるげに、両手でキャッチする。
「ユウカ! 今日こそ決着をつけよう!!」
ボールを見つめ、麻央を見つめた優華は、どうやらスイッチが入ったようだった。
「.........分かった、本気、ぶつける」
完全に氷点下クラスの肌寒さを感じながら、彼女は投げた。
氷柱のように鋭く、その速さは常人ではギリギリのものだった。
「こんじょおおおおおおおおおおお!!」
しかしさらに予想外のことが起きる。
麻央の挑発に珍しくのった優華の一球を、両手で更識が止めに入った。ボールが触れたところからジリジリと後方へ押されていくが、なんと吹き飛ばされずに止めたのだった。あの速度、いくら実感して痛みがないとわかっていても簡単にわって入って、それも両手でしっかりとらえてキャッチするのに勇気がいるはずだったが......彼女はやってのけたのだ。柴田でさえ尻もちつき、沢上も唖然としているのに。
それなりの衝撃だったろうに、更識は後方の麻央にニヤッと笑って見せた。
「あら、ぼうっとしているならあなたこそ外野へ行ったら?」
「...無理してるくせに」
ぶっきらぼうな言葉とは別に、麻央は笑って、少しマヒしている更識の腕からボールを奪い取る。
「...足引っ張んないでよ!」
「...そっちこそ!」
二人は笑い、麻央は再びボールを投げた。
「お返し――!!」
と今度も優華めがけてボールが飛び―――
「へぶぁ!?」
馬鹿みたいな声を上げ、信木の顔にクリティカルヒットした。何の構えもせず欠伸してた信木はもちろん、反動で後方に吹っ飛んで草むらまで吹っ飛んでいった。
ポカンとする更識と麻央に、優華は当たり前のことを口にした。
「.........べつに、『キャッチ』しなくてもいいでしょ?」
たった二歩、横に避けた彼女の正論に、ただ直球に投げてしまった二人も、誰も何も言えなかった。