少女は内で戦う
かなり走っただろうか、しかし隣の副会長は息を切らしてない。もちろん僕だってそうだけど……僕が言うのもなんだが、このヒト人間?
「……休憩は取らなくて本当に大丈夫ですか?」
「気にしないで良いです。 むしろ少し油断するだけですぐに足元救われますよ?」
「君は……彼等といないときは口調が違うんですね」
「ええ、『必要がない』と思っていますから」
あくまで利用し、利用されるだけの関係。それに育む絆はない。
ただ走る。ただ無心に。
しかし彼は、ここまで無口だったのが嘘のように喋るのだ。
「ところで彼をどのぐらい愛しているのですか?」
躓いた。ビタンと顔を地面に打ってしまい、起き上がりながら鼻をさする。
「…な、なんですかいきなり!!」
「いえ、まさかそこまでリアクションが大きいとは思わず」
鉢巻を巻いているはずなのに彼は転けもせず、しゃがんで手を差し出してきたので素直に掴む。
「……もー、ユウマをどのぐらいって? ……そんなの」
僕は思いっきり手を広げて声を張った。
「こーーーーーんなに、よッ! むしろ足りないくらい!」
「……フフッ」
「って笑うな!」
魔法を撃ってしまおうか悩んだが、彼はすぐに笑顔ではあるが謝罪したため一回不問にした。
「すまない。 ……私も君みたいに、彼女みたいに素直な気持ちで伝えられていればどんだけ良かったんだろうか」
「…じゃーなんで組んだの?」
当たり前の疑問に、彼は眉一つ変えず僕の目を見る。
「だって組むことならできたはず。 ……確かにキレ者な部分もあるかもしれない会長だけど、少なくともユウマと組んだのはあなたが原因だって、あなたわかってるでしょ?」
「…確かに、実のところそれは感じていましたよ」
彼は遠い目をしてどこかを見て、
「ですが、こうして阻止しようとしている今も、実は葛藤しているんです。……この汚れた手で、彼女の差し出す手を本当に取って良いのか、と」
それはユウマと似ていた。
ユウマは一度、怯えた目で僕の手を払った。最初は僕を怖れたからだと勝手に考え絶望していたが、話してみたら違って「俺の汚れをお前につけたくない」だった。
僕は魔王だ。殺したことなんて普通にあるし、それこそ僕が上だ。……それでも湧磨にかけれる言葉が見つからず、僕のこの思いは、正確に、今も告げられない。
責任が持てない。今、湧磨の全てを背負う責任を。今度こそはっきりと拒絶されるのが……すごく怖い。
「……そんなの」
だから僕は汚い。
「気にする事ないなー」
だって他人には喋れるから
「だって自分の気持ちを偽って」
偽っているのは自分なのに
「せっかく差し出された手を振り払うなんて」
振り払われたくせに
「差し出したってことは、それも飲み込んででしょ?」
さらには知ってて振り払って
「男らしく『当たって砕けろ』ではないの?」
砕ける心を用意できないまま突っ込んだくせに
「男らしくいくべきですね」
女々しいくせに………いつも『無責任』に出来もしなかったことを抗弁する僕は、汚い。
例え、今傍にいる先輩が、僕の言葉一つで決意していたとしても、間違えた時の『責任』など、とれないのに。