ハンデ壊し 1
『位置について』
号令ととも、皆が前を向く。
『用意......』
そして空砲が響き、総勢二百組が一斉に走り出した。
今回のコースはドームから出て山を下り、市内一周ののちに再び山を登ってドームのトラックに戻ってくるのだが、この二人三脚にはさらに特殊なことに『障害物』がいたるところでチェックポイントとして設置されている。
なおこの競技でポイントは入るが、競技一人0.5のため、小数点以下は切られる。そして一位、二位、三位はそれぞれ四倍、三倍、二倍される。だがこの協議ではクラス勝負はほぼ関係なく、例の噂でほぼ全員が敵だったりする。あるものは結ばれるため、あるものはそれを阻止するために......。
「......大丈夫かキキ?」
「うん、全然よ!」
昨日とは違い顔色は良く、商店街までかなり走ったが綺紀はむしろ燃えていた。
「さ、優勝するわ!」
「そうだな」
オレ自身はほかのメンバーに任せてもよかったが、なぜか綺紀に無理やりペアを組まされて今この通り、出なくて良い自由競技に出されている。オレは観客側から不審な奴を探したかったんだが......。
「...今更だがほかの女子とか誘えばよかったろ? お前のクラスは体育会系なんだしさ」
すると綺紀はそっぽ向き、
「...あんたじゃないとだめなのよ」
とつぶやく。俺はしばし考え、そして真相を理解した。
「...確かに、お前以外で早いクラスはいるし、一位を独占するためか! 確かにススノなら一位は固い。そのうえでお前が二位ならB組が優勢に———痛い痛い!! なんで今つねった!?」
「......ばーか」
わけわからないままつねられた腕は赤くなり、オレは綺紀の今の怒りの理由を、チェックポイントにつくまで考えることになった。
「...これって」
第一の障害はベタで『トンネル』だった、が、
「...ノブキ、これは」
綺紀も若干困った表情をするが無理もない。それは二人がギリギリ通れるもので、しかもそれはしぼんでいる。
「ここここれって!?」
遅れてやってきた更識、一ペアも少々困惑する。
「...なあノブキ、これはさすがに」
「いやハジメ...コンセプト的に間違ってはいないぞ」
「と、言うと?」
分からない友のため、オレはこれの効果を離すため咳払いをする。
「いいかハジメ、これを通るときにお互いが密着する。そこでうまく通れなくってなんだかんだ合法的にくんずほぐれつして———」
「ハジメに変なこと教えないでくれる?」
「ノブキ、もうあとないよ?」
女子二人にタコ殴りされ、何のイベントも起こらず現在、さらにいくつかのチェックポイントをクリアして並列して走っている。
しかしながら、やはり二人三脚だけあって片方が息を合わせられないことで脱落するものが多く、今じゃ組数が一桁まで落ちている。
何より、今通ったのは『平均台』。カニのように歩いて渡るが、大抵は落っこちてしまう。
そして、オレたちは何とか通り過ぎたが、今なお脱落する平均台に、湧磨の姿はまだなかった。
そして俺たちの前に、颯爽と駆ける煤野と島釜の背があった。
「あいつ、何やってるんだよ」
俺はつい声を漏らすが、綺紀はそんな俺の手を掴む。
「...ユウマさんなら来るよ! それより私たちも早く追いましょう!」
彼女の鶴の一声に、オレたちは再び戻ってきた山を登るのだった。
その時だった。奴もまた颯爽と、オレたちを追い抜いて。
「なっ!?」
何が起こってかわからなかった。その影は一人だったから。しかしその影がだれかなんて、この状況で一人しかいなかった。
「ユウマッ!!」
それは急に止まり振り返った。
やはり、平和湧磨だった。そしてよく見ると.......。
「...ぷハッ! お前それで走ってきたのか!!」
湧磨の右足にはちゃんと鉢巻がされ、そしてその右足に小柄な会長が、しがみついていた。