借り物…だよな? 6
「…殺せ、ノブキ」
「いや、もう死んでるぞお前」
グダッとうつ伏せで俺は悶える。アレはない。アレは俺じゃない。
「ロリコンじゃないロリコンじゃないロリコンじゃない……」
「元気出すのだユウにい」
傍でミサが励ます。ああ、なんかここに天使がいるんだが。
「いやー、お前は素でやらかすからな〜」
「ああ、お前ほどじゃないがな」
「いやいやお前ほどじゃ」
「いやいや」
「いやいやいや」
「「いやいやいやいや」」
いつの間にか取っ組み合いになっていたが、そんな中でも最終走は始まった。
「…てか、俺以外はどうだったよ」
「ああ、マナカ以外リア充ばっかだった」
「リア充死せ」
「リア充死せ」
息があったところで手を離し、俺たちは最後の二人を見ることにした。
「さーさー最後は一年のクイーン、『煤野麻央』と『傘木優華』だー!!」
すごい盛り上がりを見せる二人。まあ、あの二人ならどんな無理難題を仕掛けられても問題ないだろう。
「…って、それあかんやつだろ!」
「まーなー。Cに勝ち目はないからせめて難しくしてほしいがな」
頬杖つく信木の意見はもっともで、確かにあの二人以外に称賛なさそうだから、その二人が難しい内容であってほしいが、ここで凛堂は何やら箱を持ち出していた。
「はーい、では本当は初めから使う予定だったこの箱の一枚で決めたいと思いまーす!」
「「あるなら最初から使えーーー!!」」
マジであの人遊んでるわ! 俺たち使ってただ遊んでるわ!!
「あー、でもせっかくだし最後だし、二枚引いちゃいまーす!」
阿鼻叫喚な状態だがお構いなしに凛堂は二枚引いた。
「じゃあまず一枚!」
あー、あの紙だったら絶対不幸にならなかったのに……
「えーと、『勇者』」
……前言撤回、アレも絶対不幸ボックスだ。
彼女はさらにもう一枚をめくる。そしてニヤッとする。
あ、あいつら終わったか。
「なんという偶然か、勇者と対照の存在『魔王』だーー!!」
…逆にそれ以外がなんなのか気にならんだが、後で見せてもらえないだろうか。
「アレはどうだ?」
「……いや、詰んだろ?」
俺は一応、一般人に対して自身の役職、能力等は明かしたり行使したりしないと約束しているし、現在特殊な状況下でない限りは守られている。何よりあいつら自身今までの行動から想像しにくいがアレでも常識はある。『魔王』も『勇者』も『魔法』だって存在しない世界で馬鹿をやらかす事はないだろう。……ないはずだ、きっと。
誰もが降参する中二人は考えていた。おそらく互いが互いにお題の存在だからだろうか?
……いや、なんか様子が変だ。
「おっしノブキ、その手離せ」
「なーに言ってんだユウマ、まだ競技は終わってないぞ?」
こいつわかってて掴んでやがる。
麻央と優華はすでに答えが出たのか、ニヤニヤと、ゆらりゆらりとこちらに向かって歩いてくる。
「いいから離せ。てか文坂も離して」
「嫌だなーユウマ」
「そうですよー、ユウマくん」
いつのまにかもう片方の腕も掴まれていた俺は身動きが取れない。
「嫌だ! 絶対関わってはいけない何かを感じるから! 離せ! 離せーーー!!」
ギュッと、両肩の服を掴まれた。掴み方が明らか正面で、汗が噴き出てる気がする。
「………ユウマ、きて」
「さーさーユウマ、僕らと行こうか!」
「嫌だハナセーーー!!」
勝てず、俺は二人に引きずられて処刑代の前に出されていた。いやほんと、凛堂が執行人みたいに見えたくらいだ。
「おやおや〜? 我らがアイドル様たちは降参しないんだねー? いいでしょう、聞かせてもらおうかしら」
二人は息を吸うと同時に止めようとした、が、
「…っと、その前に」
とマイクのスイッチを切った凛堂が俺たち三人をみる。凛堂は、俺たちにだけ聞こえる声で喋る。
「……今回、私の知る限りでもかなり危険な事がこの学校で起きようとしているの」
神妙に、彼女は頭を下げる。
「…お願い、ハナとイナツを助けて!」
「ちょ、こいつらは関係ないだろ!」
俺は悔い気味に言うが、凛堂は真っ直ぐな目を向ける。
「打てる手はいくらでも打つ。……保険は何個だってかける。…例えあなたに後で殺されても」
まだ言いたいことはあったが、それを麻央が止め、次いで喋る。
「…大事なんですね」
「ええ、絶対。だから、裏で話したくてもあなたがきっと邪魔するからここで話すしかないの」
それには俺も言葉が出ず、しかし麻央はにこりと笑って俺の肩を叩く。
「そーだねー。ユウマは過保護すぎるからきっと邪魔したなー。……まあ、邪魔しても関わるけどね」
「…同感」
今度は優華が俺の肩に手を置く。
「……あなたは頑張りすぎ。……頼らないで倒れたら私たちは自分を許さないよ?」
数秒の静寂ののち、俺は、
「……まあ、大丈夫だろ?」
何か言うより早く、俺は続ける。
「…『俺ら三人なら奇跡が安売りされる』って、師匠言ってたしな」
それ以上の返答は、不要だろう。
「……さて」
マイクのスイッチを入れた凛堂は、少し悩み……、
「…なんで『勇者』と『魔王』でヒラナゴくんを呼んだんだい?」
「あ」
完全に止めるタイミングを逃した。だってこいつら、すでに喋る準備できてたから。
「まておま––––」
きっと黒歴史になる。その前に止めたかったが虚しく、二人はすでに口にしていた。
「夜の勇者!!」「朝の魔王」
辺りが静まったことと、そのあとについては、まあ、ご想像にお任せしますよ。