借り物…だよな? 5
「南無三」
「…マジで殺されかけた」
信木は十走目の終わりまで廊下を駆けていたらしいが、結局のところ頭から血をダラっと流して帰ってきた。文坂は麻央と優華に宥められているが、睨んでいる。
「てかマジでなんで持ってたんだ?」
「いや、もしまた狙撃された時、庇った時にオレも死なないために仕込んだんだわ」
「…バカだ」
バカだ、マジで。確かに辞書は重いだろうけど、よりにもよってチョイスが『エロ本』とは……神聖のバカだ。
とはいえ、結果的にはまた優勢に近付いたしいいんだが、バカだなほんと。
「おうおう、そのバカに出来てお前に出来ないことはないだろ悪友!」
ニッと笑った信木に苦笑し、俺は立ち上がった。
「やあ、次は君かい?」
どうやら戻っていなかった凛堂が目の前に立つ。
「ええ。お手柔らかに」
既に十走目は惨敗。いや惨敗ってなんだよ。
「ふふふ、じゃあ君にはさらに難しくしないとね?」
「いやいや、一般人にそれはないっすよ先輩?」
「ふーん…でも、期待しているよ?」
何を、とは聞くまでもないだろう。俺は彼女の出題するものをまつ。
別に本気になる気はない。無理難題だからこそ俺はむしろ答えずリタイアを考える。だって、その方が安全だし。
「好きな異性」
……ん?
「………」
「好きな」
「いや聞こえてました」
俺は親指を額に当てて考える。あれ? いきなり普通のきたぞ?
「……えーと、これの裏は?」
「ないなー」
「………」
おいまて、マジで待て。
俺の額をトントンと叩きつつ、周りを見る。
麻央と優華がなんか怖いし。
一応助け舟をとギンキ達を見ようとしたが、傍のカナコもなんか目が怖いし。
「ぷっ!」
「……笑っているようだが、お前はどうすんだ?」
と横にいる愛花に視線を向けるが、
「さーねー」
とかわされる。
俺は唸ったが、誰も助けてくれそうにない。一も智も、笑ってみてる信木も。信木は後で処す。
「………」
「さーさー、どうするー?」
「そーそー、どーするー?」
凛堂と愛花のダブルでの挑発はかなりイラっときたが、ひとまず深呼吸して考える。この問いの、回避手段を。
そもそも定義として「好きな異性」とは、恋愛を意味しているのだろうか? ただ単に異性の『性格的に』好きだとか、『外見的に』好きだとか、そう言うものだったりしないのか?
そう考えて、考察し、あらゆる可能性を考え抜き、『魔力探知』を使う。
「……」
「あれ? どこいくの平和くーん?」
ただ歩き、そしてグラウンドの中央にしゃがみ、叩く。
「……いるんだろ?」
叩いた先、丸い縁が現れ、それはパカっと開いた。そして、
「ジャーン!! 流石ユウにい!!––––っへ?」
と飛び出た女の子の首根っこを掴んで掲げた。
「俺が好きなのはこの癒し系だ!!」
……後になって後悔するのはわかってたさ。いくら思考がバーストしてても、ロリ を掲げるんじゃなかったことを。