借り物…だよな? 1
「…うーん」
「どうしたキキ?」
「……何か忘れているのよねー」
先に行った二人を除いた面々で坂を登る。綺紀は少し複雑そうな表情を浮かべている。
「………昨日は私達の、勝ちよ?」
「いやね、確かに昨日の事もそうなんだけど、何か、もっと先の事で忘れているのよねー」
腕を組んで唸る綺紀は、案の定足につまずく。
「え、あ、ちょ!?」
「…また怪我したいのかお前は」
とギリギリで小中が手首を掴んだため転ばず、しかし服がズレて肩が少し出た事で綺紀は途端に真っ赤になって、
「この変態!!」
とビンタしていた。
「……理不尽だと思わねーか、ユウマ」
「フッ、いい気味だラキスケリア充」
「どこに『ラッキースケベ』があったよ? むしろ『バット貧乳』だってノガッ!?」
どこからか飛んできたフライパンに直撃し、信木は伸びた。
「ごめんねノブキ……これで昨日はおあいこよ?」
「まだ続いてたのか!?」
体育着の二人は言いあっているが、現在2日目競技の第五種目『借り物競争』中だ。
なんと悲惨か、この競技は凛堂がお題を決め、それに沿った形で撮りに行くというもので、何故か今回も三年から順に始まっている。ちなみにクラス2×4の六人参加で、信木と文坂が9走目、俺と『何故か』不参加だったはずのクラスメイト愛花が11走目、そして最終12走目は麻央と優華だった。
そしてそのお題だが、『じゃあ最初は《山の天然水》』とか『次は《馬車》かしらね!』とか、『えー? じゃあ『お掃除ロボでいいよ』とか……現在ゴールした人はゼロだ。一番悲惨な注文はちょうど今、7走目の『じゃあじゃあ、彼氏連れてきて!』だった。6走目全員男なのに。まあ、同性の恋愛は俺としては応援するが、自身がそうと言うわけではない。てかなんの話だよ……。
『……うー、誰もゴールできないなー』
凛堂は不服とばかりにグデ〜ッとし出したが、文句あるのは参加者の方だろう。
「…お、7走目は生徒会長様だぞ」
信木の言葉に走者側を見ると、確かにちっこい人がいた。てかちっこ!
『おおー、我らが生徒会長。相変わらずちっこいなー』
とてもそこで働くメイド長とは思えない言葉だが、凛堂は姿勢を正しく、少し雰囲気が変わった。
『…ところで会長。今『平和湧磨』とお付き合いしているって本当ですか〜?』
会長は無言で見ている。眉を潜め、さらに言葉を向けた。
『あー、やっぱり付き合ってるの〜?』
「…ふふっ」
微笑を浮かべた会長に、凛堂は眉間にシワを寄せる。
『……何がおかしいの?』
「ううん別に? ご想像にお任せするわ」
『へー、じゃあ肯定と受け取ってもいいんだー?』
「ふふっ、そうかもね」
毅然とした態度の会長に苛立つ凛堂。彼女の意図を理解しているのか、いないのか、会長は笑みを見せていた。
「……許さない」
しかしそんな空気を壊す者はいた。
全体がゾッとしたオーラがどこからか、自然と目が向くもので、
「……あー、あらら」
さしもの会長も若干笑顔を引き攣らせる。
きっと唯一そんな空気に対応できたのは舞夜と優華、そして俺だけだろう。
麻央が仁王立ちで、睨み付けていた。
「…ダメだよ、ユウマは僕のだから」
どうか穏便に済ませて欲しいが、会長は再び毅然とした態度で麻央を見つめる。
「ふふっ、どうかしらね?」
あの、あんま挑発しないでくれます? あと麻央、お前の所有物ではないぞ?
会長は再び凛堂を見るが、言葉はきっと麻央に向けていた。
「欲しいものがあるなら勝ち取りなさい。時にどんな手を使ってでもね♪」
その言葉を最後に彼女は見向きもせず、麻央は静かに座った。
……てか、マジで今のなんだよ?