濃霧の朝 2
校門を過ぎ、ドームまで走る麻央。
彼女はなにを感じ、なにを考えて行動するか、きっと彼女自身理解しているか分からない。
誰もいない。霧が立ち込める中、たった一人の少女がドームのドアを開ける。鍵はかかっていなかった。
あまりの静けさに、彼女は固唾を飲んで入る。
電気がなく、まだ日が差さない真っ暗な広間。その奥の扉は開いている。
そんな中、どうしてか霧はドームに立ち込め、そして––––
「ダメっすよ先生」
俺は、後方への回転斬りをした麻央の斬撃を、その後ろに奇襲しようとした彼女の肩を引っ張り防ぐ。
「あ、ユウマ!」
「お前は頭だけで行動するな馬鹿」
ため息を吐き、そして掴んだ肩を離した途端に後方に飛んだ彼女に視線を移す。
「……霧の時は味方と思ってたんですけどね、坂波先生」
俺はポケットから、先日から対策に用意していた道具の一つ『魔糸ックヨーヨー』を取り出し一点に投げる。
使う糸は『魔糸』、魔力の調節で長さ、硬度、弾力性が変わるもの。硬度限界は鉄、距離は最大一キロ。
狙ったのは照明スイッチで、触れたと同時に明かりが三人を照らす。俺と麻央、そして1C担任『坂波成『さかなみせい》』。
「……いつから気付いていた、ヒラナゴ」
「今日、それも今、この時」
一瞬ポカンとしたが、しばらくして禍々しいナイフを落として笑いながら降伏した。
「ハハハ、『霧隠し』から思っていたが、やはりお前は馬鹿だな!」
普段、生徒の前でなんの表情も見せない彼女は、ただ腹を抱えて笑い続けていた。