招かれて 3
「……で?」
「あら、深く聞かないのですか?」
答える気はあったのか、意外な返答に彼女はキョトンとする。
「いや、言いたいならいいけど、別に隠し事の一つや二つは気にしないさ。俺だって聞かれて答える事とそうでないことがあるっすからね」
「あら、じゃあ二人のことも聞かないの?」
「それはそれ、これはこれっすよ。そっちが言ったんでしょうが、聞かないと進まないような話って。生憎物事をきっちりするタイプではないんですよね、俺は」
「……そうね、今日の件でよく理解したわ」
クスッと微笑み、彼女は再び話し出した。
「…彼らが苗字が違うのは、単に血が繋がらない義兄弟だからよ。互いに干渉せず、ただ利用し、ただ生きるために行動していたの。彼らは窃盗から殺人までしていた。正直更生できるかなんて、サトシと同じ監視下に置かれた後も分からないほどだったわ」
話的に、今とはあまりに違う性格だったことが伺える。彼女は紅茶をすする。
「……監視下に置かれた後、彼らも特務に率いられ、私たち四人は特殊観察児童組織『タブーチャイルド』として、政府の犬として働いたわ。意外と私たちは優秀で、お偉い方はよくこき使ったわね。こっちは衣食住が最低限揃っていれば文句言わないし」
彼女はトン、トンと人差し指が一定のリズムでカップを叩く。
「…そんな折、あるお嬢様を守るって依頼が来たの。その時は別働隊でサトシ、ハジメ、そしてその時新米のカスミが動いていて、割けたのが私とイナツだけだった」
ふっと、彼女は笑顔になる。
「ほんと、その時の護衛対象がおてんばで、あの子いつもふらふらっといなくなるの。そしてさらにびっくりなのが、当時感情も出ないイナツがいの一番に見つけてきて首根っこ掴んで帰ってくるのよ。ほんと命知らずなことする二人だから冷や冷やよ」
と今度は朗らかに凛堂は笑う。
「…最後の日、お別れをいう気はなかったのに、いなくなると分かったのか中々離してくれなかったの、一日中ね。色んなわがまま言う人だったけど、今までで一番なわがままはあの日かもね。『二人を専属執事とメイドにする』ってさ。あの時は冗談と笑ったけど、今じゃあの子と言う通りだ」
今こうしてメイドをする彼女は、そんな会長をきっと慕っている。そして、あの副会長もきっと……。
「……だけど、それと今回は別。どうしても今までの経歴があの子を傷つける」
カシャンと強く置いたティーは少しこぼれ、彼女はキッとこちらを睨む。いや、きっと睨んでいるのは––––
ハッとし、そして彼女は頭を下げる。
「だから、傷付く夢は早々に砕くべきなの。あなたならできるはずよね? お願い、あの子の夢を早々に砕いて欲しいの!」
深く、本当に深く頭を下げた彼女は、きっと二人を一番知るからこその行動で、たとえ悪となっても倒すことだろう。
知ってるさ、そんな下げ方くらいは。
だが、それでも答えられないことだってある。
「……悪いっすが、俺は会長を優先します」
ガッと肩を掴まれ、暗く歪んだ顔が目の前にくる。
「なんで!? 松尾は今トップクラスの富豪なのよ! そんな子と、過去に何ある男がくっついたらなにが起こるか分かっているの!?」
「…そーっすね、まずは周囲の反感があるでしょうね」
「だったら」
「ですが」
俺は彼女の両手を掴んで離す。
「…何か勘違いしているようですが、俺は善どころか偽善でもないんですよ? 俺の行動は誰にも喜ばれるつもりはありません。ただ、俺がおもしろいと思ったことしかしないだけですから」
「それは、周りがただの遊戯とでも思っているの?」
俺はきっと悪そうな顔をし、立ち上がる。
「俺は俺のためにしか動かない。今回の件も、前の『霧隠し』も、俺にデメリットがあったから対処しただけのこと。そんな俺を『悪』と呼んで構わない! 力で済むなら行使する、そんなずるい人間だと理解しといてください」
ドアに手をかけ、ふと言い忘れたことを思い出し振り返る。
「…勘違いついでにひとつ、メリットがあったから今は協力しますが、デメリットが上回った時、俺は排除に一切の躊躇いはしません、と上層部にお伝えください」
バタンと、勢いよく閉めた。