招かれて 1
「ささ、あがってあがって!」
二度目の松尾邸に、今度はいつもの朝食メンバーでお邪魔していた。
「すげー!! 黒服がいっぱいじゃん!」
「あ、あそこメイド通ったよ!」
信木と文坂ははしゃぐが、どうも一、智、更識の様子が悪い。
すると、出迎えに一人のメイドが現れた。
「どうぞお越しくださいました平和様御一行様。どうぞ中へ」
『あーーー!!』
それはメイドだが、同時に生徒会広報部兼放送委員長『凛堂』だった。
「まさか凛堂先輩がメイドだったとは」
信木を始め数人は驚いたが、何故か自衛隊組は目を合わせない。
「はは。まあ今日はお嬢様のお客様なので誠心誠意対応いたします」
スカートの両端を摘んでお辞儀した凛堂に、三人はこそっと話していた。
「……なあハジメ、悪寒が」
「……ねえ、私も」
「……実は俺も」
「なんか言った?」
ゆらっと目が三人を向くと、今度はビシッと背筋を整えて凍りついていた。なんか本当に氷点下まで。
「…彼らが自衛隊員なのを知るのは……まあ全員なら良いですね」
と、今度はビシッと、しかしニコッと笑顔で喋った。
「わたくし『松尾邸次期15代メイド長』兼『自衛隊員特異災害班粉吹市管轄』の凛堂 皐月特務中尉であります。……現在は彼らの統括役をしています、平和湧磨さん」
今更驚きはしない。なんとなく分かっていた事だ。
三人はあくまで実行部隊で、裏で指示役があるとは思っていた。更識や智にその役は当てはまらず、一はあまり単独行動をとらない。まるで誰かの指示を待つだけの人形みたいに。
俺は右手を差し出す。
「平和湧磨です。こうして話すってことは、少しは疑いが薄まったと思って良いのですかね?」
彼女は俺の手を強く握り握手する。
「ええ。現在あなたへはむしろ友好的に、協力を仰ぎたいとさえ考えています。まあ、あなたが控えたように、あくまで薄まっただけですがね」
「はは、それでもマシですよ。俺はなにも企んでませんから、今後の行動で証明する効率が上がったと思えばいいことです」
「そうですか。ではそろそろ全車も済ませましょうか」
手を離し、彼女はパンパンっと手を叩く。
「お食事の用意ができております。さ、大広間へ」
彼女の後に続き、俺たちも彼女の後を追って歩いた。
ガシッと、俺だけが手首を掴まれて。
「おおっと、君は少し待ちたまえ」
彼女の笑みは、俺の心に警鐘を鳴らした。