消炎 2
「どうだ?」
控室にノックして入る。信木をはじめ、皆がやつれていた。
「……だめだ。まだ目が覚めない」
「そっか……心当たりは?」
「ねーよ。……多分な」
歯切れは悪いが、今は深く掘り返す気はない。実際さっきは信木がいなければ反感をきれいにひっくり返すことはできなかっただろうから。
「…僕がちゃんとしてれば」
俺は消沈し切った麻央と優華にチョップする。
「…そんなんじゃ文坂が起きた時真っ先にテメーらが叱られるぞ。……てか普通にしてないと仮に記憶が抜けてた時に困るからやめろお前ら」
俺の言葉にハッとしたのか、皆が気を引き締めた。
「……つーか、ルシーはどうした?」
ギンキに話題を振ると、厄介ごとに巻き込まれたのだろう、俺に外に出るように促した。
別室に集められたのは俺と麻央、優華、ギンキ、そして……
「…ってちっこ!」
「ひゃっひゃっひゃっ! どうじゃ愛苦しかろう!」
俺は舞夜を持ち上げた。いや、昔の麻央を彷彿とさせる。
「昔はまだマシだったのになダダダダダッ!!」
今じゃ容赦なく耳引っ張られるし、痛すぎるし。
手を離した麻央は、下ろされた舞夜に視線を合わせるようにしゃがむ。
「その感じじゃ、今は力がだいぶ減ったのねー」
「そーじゃの。原型がこのようになるほどにはな」
実際あまり魔力が感じられない。普段がダダ漏れなだけ差が大きく、彼女の弱体具合が目に見えるものだった。
「そこまで強かったのか?」
すると麻央は渋い表情をする。
「……あの男、かなり特殊なのだ。多分だが、あれを対処できる日本人、いや地球人はいないと思うほどなのだな」
「そこまでか」
「……あと、恐らくマオは対峙しないほうがいい。奴、ほとんどが『闇』に見えたのに、突然変質して『光』を纏った。一撃で我の闇を祓うほどにな……そこのところ、ぬしは知らぬか?」
と、現状ただ黙るルシーに向けた言葉は、彼女をぴくっとさせる。
「そういや、お前あの時あいつを『アーサー』って言わなかったか?」
ギンキはそう呟くが、『アーサー』で肩がピクッとなるのを見逃さなかった。
「アーサー……」
俺は顎に手を当て考える。
アーサー王物語、簡略すれば全ヨーロッパの王になったり、十二人の円卓の騎士と『最後の晩餐の聖杯』を探すとか、果てはその騎士の一人『モルドレッド』と王の座をかけて戦い死ぬ物語だったはず。
「……イディオでこんな伝説、あるいは『アーサー』って名前はあったか?」
いやある気もするが、しかし、優華は首を横に振る。
「………名を残したものの中にそれはない。昔文献をいくつか見たからわかる」
「名を残さないやつって線もあるが」
と、そこで麻央がルシーの前に立つ。
「……マオ様でもお伝えできない過去はあります」
「一つでいいの。これも答えられないならそれでいい。……あれはイディオの人間なの?」
ルシーはしばらく悩み、そして横に振った。
それが意味するのは、俺たちの中では一つしかない。彼女も、そしてその男ももしかすると『転生者』なのだと。
「……なら、応援を仰ごうユウマ」
「ああ、妥当だな」
宣言通り、麻央はこれ以上聞くことなく、次の方針を固める。
「となると、マヤが倒される相手に僕が戦っても勝機はない。今後は単独行動を控える方針でいいかな?」
皆異論はなく、そこから役割を決めて解散した。