消炎 1
「…どうか、そういう事で頼みたいんだ」
昼前、一年の全員をグラウンドに召集した。
まず今回の件、得点について未だ納得がいかずに揉めていたからだ。
そもそもルールをかなり曲解させたのは俺だし、最後は明らかに文坂が早く降りていた事もあり、そこで揉めていたからだ。
燃えすぎた熱は引火する。それは時に、真逆に……。
互いに譲らない言い争いを終わらせるために麻央と優華に呼んできてもらったのだ。
文坂は目を覚まさないが、恐らくかなり記憶が混乱した状態で目覚めると見ている。
だから頼んだ内容は『共通認識』について、「騎馬戦では文坂がカウンターで信木の鉢巻を取ったこと」だ。
もちろん反発はあった。
「なにかしらのアクシデントとは言え、C組が優勢だったろ!」
「それ言えばお前らC組がルール外の行動を取ったのはどうなんだよ!」
「はあ? それならお前らABの共闘もどうなんだってんだ!」
言い争いが加速していく。もはや殴り合いにまで発展しかねない。
……ならば、力で止めるか。俺は無詠唱で火を連想し––––
「頼むみんな! オレの負けだ!! 気に食わねーならオレを煮るなり焼くなり好きにしてくれ!!」
消火した手を下ろし、俺は皆の注目の集まった信木をみた。
それは深く、見惚れるような土下座だった。決して馬鹿にしているんではない。事実皆が静まったほどに漢らしい背中が視界に入るのだから。
すると、A組の環が信木の正面にしゃがみ、手を肩に乗せた。
「……そこまで文坂さんを思っているのですね」
彼女は立ち、皆に向き直る。
「…いいですか! そもそもこの学校は常識を超えたものがある学校です! 明日の二人三脚もそうですが、それをひっくるめて葉坂高校なのですよ! ……ただ外に出ただけ、ただ住宅地も戦場にしただけ、ただ人数を減らしただけ、ただ常識の範囲だけでいけないだけ、ただそれだけ!! ……この学校はそういった『想定外に対しての柔軟さや適応を鍛える』場だと、わたくしはそう思っていたのですが、それはわたくしだけですか!」
過去の葉坂を知っている彼女の言葉はそれだけの力があり、周りは静かになる。
その問いに答えたのはさらに意外、B組の美空だった。
「う、うちは今まで体験しない運動会ができて楽しいです! こんな事、この学校でないとできないと思うわ!」
そこから伝染していき、皆がだんだんと納得していった。
「…ですから小中さん、あなたが謝る必要はありません。むしろ脳や体を鍛える、楽しい時間になりました。…それよりも早く文坂のとこへ行ってあげてください」
「…ああ、すまないタマキ」
信木は立ってさらに一礼し、走り去った。
「ま、仕方ないか」
「あの小中が土下座してまでだもんな」
一様に笑いが沸き起こっていく。
この学校はすごく、暖かかった。
「ま、ユウマ一派のいつもの奇行だもんな」
「……ちょっとまて、なんで俺が筆頭なんだよ!!」
『全校の常識だから』
……若干解せないところもあったが、まあ楽しい生活がまだ送れそうだった。
……いつから俺は力に頼る生き方になったのか、そんな嫌悪感を残して。