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「……くッ!」
彼女は拳を握りしめ塀を叩こうとしたが、それを止める。
「……傷を増やさないで。霞のせいじゃない」
「でも……これって…」
あまりにやるせない気持ちに彼女は崩れる。
話を聞き終えた智が戻ってきた。その手には布切れを握りしめて。
「どうやら血痕以外はないが、DNA検査から今消息がつかめない一般人数名が分かった。それと、やはり『霧』があったらしい」
「……そうか。天候、気温、その他色々加味してもおかしいな」
「あいつよ!!」
彼女は感情あらわに叫ぶ。
「あいつしかいない! こんな非現実、『ユウマ』しかあり得ない!! みたでしょ、あの炎を!!」
確かに非現実なことをあの日はやってみせた。だがそれだけ。それに……どうしてか僕はそうは思わない。
「まだ情報が足りない。それに不明者が死んだとは限らないはず」
「じゃあなんで何もでてこないのよ!」
「落ち着け霞」
彼女の肩に手を置き抑える。
「……あいつは違う」
「ま、どっちでもいいが」
とどうでもよさげに頭をかく智だが、内心かなりキていると思う。
「ま、それを含めてだが、今日聞いてみればいいだろ? ま、あいつだろうと、捜査線上にない奴でも……報いは受けさす」