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「...あり得ない」
俺の二発目を、あの男は手のど真ん中で受け止めた。それは並の洞察力ではできないはずの事。
『...何しているツカサ!』
回転する思考を、その声が突然俺の頭に入り込む。俺は通信機を取る。
「...セイさん」
『なぜ独断専行した!』
「......」
『...あいつか?』
「はい」
『...わかった。...もう奴の言葉に従わなくていい』
「しかしセイさん!」
『二度言わせるな。それより早く出ろ。......すぐ追手が来るぞ』
「...了解」
銃をまとめ、廊下をかける。
「ま、そうなるじゃろうな」
しかし突如、後方からの声にとまる。
「ここはいいの。静かな廊下じゃ。出来立てで最上階の一段前は倉庫代わりに物が乱雑し、使われないからライトもつかず、外からじゃよく見えない」
ジャキッと拳銃を構えて振り返る。
金髪の、金色の瞳の着物風パーカーの女が立っていた。
「...じゃが、せっかくのパーティーをするには窮屈じゃの?」
うっすらと笑みをこぼす煤野舞夜は、ゆらっと...
「......まあ聞くまでもないがお主、その武器」
瞬間消えた舞夜に、瞬時に左からサバイバルナイフを前に防御姿勢を取ると、衝撃が伝わると同時、目の前に現れた。
「...死んでもいいと、考えているのじゃろうな」
どこからともなく出た刀に弾き飛ばされ段ボールにぶつかる。
「まだじゃぞ!」
体制を素早く取り、斬撃をはじき返す。
「......ッつ!」
右の拳銃を放つが、それで距離を取られただけだった。
「...その様なおもちゃじゃ、ユウマは倒せぬぞ?」
ナイフはぽろっと刃が落ちた。
このままじゃ死ぬ。だが死に恐怖はないが、あの人の役に立つまでは———
「.......」
「ふっ、今なら降参も———ッ!!」
そうだ、そのためなら、
「な、なんじゃその獲物は!」
俺は、嫌った力をふるうのも、
「...これは相性が———」
———迷わない。
「……けほっ、けほっ…」
先ほどの女はどこにもいないが、土埃に咳き込んだ幼女が一人いた。
「...まさか、ここまでとは」
それが誰かは容易に想像できた。煤野舞夜だ。
「なんじゃ、この容姿で驚かんとは」
圧は無く、トドメをさすため拳銃を突きつける。
「……一応確認だ。貴様は『煤野舞夜』か?」
「…これに否定の意味はあるのかな?」
ダン、と銃声が響いた。
「…!?」
拳銃を落とした。すかさず舞夜をみると、奴も拳銃を持っていた。
「悪いのぉ、詠唱するより道具に頼る方が楽なのじゃ」
瞬時に避けたとはいえ、右手首に風穴が開いている。
「さて、もう降参かな?」
銃口は脳天に向けられ、ニタリと女は笑う。
「……舐めるな」
二発目が放たれるが、それを避けて接近し、奴がリロードを終える前に拳銃を蹴り飛ばして壁際に右腕で首を締め上げる。
「……やはりその体型では奇怪な能力は使えないか」
「……ぐ、ぐぅ…」
もがくが、あと少しで昇天するだろう。
さらに力を入れるが、女はふと、笑みを溢す。
「…なあ殺し屋、随分と鈍感なのだな?」
その言葉の意味を知るのはそんなにかからなかった。
「おラッ!!」
銀の大斧が女と俺の境目で振り下ろされた。
素早く避けて距離を取る。そこにいたのは巨体の大男だった。
「なんだ、妹の方か? 随分苦戦しているようだな」
「ケホケホっ……いや、あれは相性なのだ! 他では勝ってたのだ! というより油断してなければ勝ったのだ!!」
「へいへい、ガキの戯言は後で聞いてやるから」
男はシッシッと手で追い払い、そして斧をこちらに向ける。
「……にしても日本でここまでできる奴はいないから少し退屈してたんだ。楽しませろ!」
あの斧は厄介だ、と俺は反射的に避ける。
それを奴は軽々と持ち、さらに追撃するようにブンブン振り回す。
「…くそっ!」
懐からあるスイッチを押す。
ボンッ、と天井が爆発して、空が見えた。
「逃すか!」
男はブンッ!と豪快にふるが、俺はその斧を足場に飛び、天井の鉄骨に懐のムチを絡ませる。
「くっそ、降りて来いこらっ!!」
「……必ず決着つけてやる」
しかし右手が麻痺し出したためこれ以上は危険だ。俺はムチでユラユラと前後に揺らして前回転で天井に降り立つ。
「……借りは返す、煤野舞夜」
そう言い残し、悔しげな二人の顔を後に––––
「……アーサー?」
ズキッと、その言葉が俺の頭に痛みを駆け抜けさせる。
「……!?」
俺はその声を見る。
……う………わた……にげ……
ノイズのように頭に記憶の断片が蘇る。だが、それは俺の、『十二士 司』の記憶ではない。
「……ぐっ!」
「馬鹿、下がれ堕天使!!」
反射的に銃口を背の高い女に向けていた。狙いは定まらないが、
「ルシー!!」
放った弾丸は舞夜によって避けられた。
奴らが気を取られている間に、俺は駆け出した。