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非常識の衝突 7
「この、この、この!!」
「キキ、冷静になって!」
文坂は麻央の声も届かずにひたすら信木の鉢巻を狙う。しかし信木は動きを読んで左右に首を振る事で避けきる。
「なんで! なんで! なんでッ!!」
「ユウカ下がろう!」
「させっかよ!!」
上手く後退するが、俺が距離を開けさせない。動きもいつもと違い、二人の息を合わせないといけない二人に合わせることは難しくない。
「行けるかノブキ!」
「おうよ、任せろ相棒!」
段々息が合わなくなるキキたちと違い、こっちのペースは上がっている。
「キキッ!!」
「取れろ、取れろ、取れろッ!!」
今も聞こえずに信木の鉢巻を狙う。既に信木が手を出してこないのを理解もしないで。
「取れて! 取れ———!?」
「...今だッ!」
だから、信木の突然の強襲は、彼女が一瞬体勢を崩したときに起こる。
前傾姿勢になる綺紀の頭の鉢巻に手が届く。
あと十センチ。
あと五センチ。
あと一センチ。
あと一ミリ。
あとコンマ一ミ
二本の針を刻んだ銀色の右目が捉え、残像の見える右手が信木の鉢巻まで伸びていた。