状況とタイミングを誤るもの 3
『…せーの!』
まさかの気絶のユウマを乗せ、なんとか騎馬を構築した。
先頭は判断面で一、パワーで右をオレ、左を智が担う。
救いはユウマがなんとかピンとしていること。最も頭から上はグダッとしているが……こいつ器用な気絶の仕方してるな。
「もうやるしかない! いいかお前ら、作戦A『脱兎』だ!」
間も無く先生の合図で始まる戦い。オレたちはまず、このバカが目覚めるまで逃げないといけない。もはや防戦一方だが、何せこいつの頭の鉢巻は、大将のラインが刻まれているのだから。
皆、願わずかすでに両クラスこちらの大将にロックする。
大将がとられれば、その中で生き残ってた分の加点が行われる仕組みだ。つまりこの鉢巻き取られれば圧巻の終わりで、肝心の騎手は気絶。てかよだれ垂らすな!
『ではでは、始めまーす!!』
「位置について!」
放送を合図にピストルを上に向けた。
「ドン!」
「全員、退避ーー!!」
全員、入場口に駆け出した。
「な、逃げる気なの!?」
「ああ逃げんだよ!」
誰かの声に答えてから、各々が無事に通り終わるのを待ち、最後にオレらが挑発して去る寸法。
ここでユウマと二段構えだったが、もうオレがやるしかない。ここでミスればクラス全員後ろ指刺される。だが、悪ノリさせればこっちのものだ。
文句言うなよ湧磨、お前が気絶したのがわりーんだからよ。
オレは深呼吸をした。
「…なあ野朗ども」
オレはあえて、一番危険な賭けを打つ。
「オレ、実は秘蔵写真『アイドルの日常』ってのを作ったんだけどさー」
全員が、特に男子が固まる。
「分かるよな言わなくとも。……もしお前らが勝ったら売ってやろうか?」
少し揺らいでいる。そこでさらに変化球。
「……ま、日常的にそのアイドルにラッキースケベ展開をする事が多いユウマに、勝てればな?」
「全員、C組を叩くぞ!!」
男子がかかった!! オレらはその勢いで廊下を駆け抜けた。
「ナイスだノブキ! 次の作戦はどうする?」
智がはしゃぐが、一向に目覚めない湧磨は揺られている。
「……今はどう考えても勝てない。まずはこいつを起こすしかないが、ひとまず外に出よう!」
そのまま駆け抜けようとしたが、
「させるかー!」
やはりB組は早く、すでに追従する。
「ふっ、指揮官が出張るからいけないんだよ!」
騎手は手を伸ばすが、そんなの織り込み済みだ。
「やれ佐々木!」
「おうよ!」
角から現れた仲間の騎馬がそのままそいつの鉢巻をとった。
「な!?」
「あーばよ!」
他はどうも狭い空間だけあってすぐには追いつかず、オレたちは無事に外に出た––––
「……嘘だろ」
外で、涙目の巨乳少女を前足にした幼馴染が、かなりご立腹だった。ヤバイのは、さらにまだ煤野がキレていることで二倍だったこと。
何故だか綺紀は、騎馬戦で若干でも不正を働こうとしたやつを許さない。中2の時、それで涙を流した男子を見たことある。まあオレの騎馬だったが。
「……よお、お早いお着きで」
「そーねノブキ。……フライパンと鉄拳、どっちを喰らってから鉢巻き取られたい?」
ここで時間をかければ挟み撃ちは明らか。
「加勢するぜ小中!」
「さ、早く行って!」
そこで先行したうちのニ騎が間に入った。
「すまねー!」
「……ふっ、礼は写真な!」
「お、おう……」
走り出しながら、
「……どうすんだノブキ、ありもしない写真集欲しさに戦ってるぞ」
ブラフの写真集がここまでとは、と考えて走る羽目になるとは、流石に予想していなかったのでどうするか、と悩みながらドームを後にした。