状況とタイミングを誤るもの 2
「ねー、本当にうちでいいの?」
クラスメイトで僕らのグループで唯一の超一般人『美空 三春』は不安げに問いかける。
既に構成は決め、僕と霞、三春、そして騎馬に綺紀がつく。
これはみんなの推しで、どうも綺紀の騎馬に見合う人が僕らしかいないと言われてしまったからだけど、この中で誰よりも不安げだった三春はオドオドしていた。
「だって、ほら陸上部の南波さんとか、バスケ部次期エースの宮藤さんとか––––」
「みーちゃん!」
僕は彼女の両肩に手を乗せる。
「……僕らそれぞれがまとまらないから司令塔になってほしいの! 超常識人で僕の親友に頼みたいんだ!」
「……はい〜…」
すると茹ったタコのように真っ赤になってしまった。
「コラッ! 無意識に同性ナンパするな!」
何故か霞に叩かれた。そしてそこからアームロックされ、
「……んでー、まるで私も非常識の一人みたいにいってるようだけどー?」
「ぐ……だってそーじゃん!」
「なにをーーー!!」
と離れたと思ったら、今度は脇をくすぐられた。
「あ、あは、あひゃひゃ!! た、助けてキキ!!」
「…そーいえば私も言われたなー」
「ちょ、まっ! あひゃひゃひゃひゃ!!」
コチャがされ、多分かなり死にそうだった。
そんな僕らを見て、ポツリと「かわったなー」と呟く三春。
「へ?」
「あ、いや、違うの! …えーと、カスミちゃんもキキちゃんも、初対面の頃って素っ気なかったからさ」
「へー、カスみんはともかくキキがねー」
「へー、なに私はそういう認識なの、ねーマオー?」
「ひ、ひひゃいひひゃい!!」
今度は両方のほっぺをつねられた。
「…でも意外ね。私らの初対面て、この子いつも笑ってるか、ノブキ捌いてる印象だったけど」
「そ、そんなに笑ってるかな?」
小中を捌く、を否定しなかったのはあえてスルーし、僕らは彼女の過去語りを聞いた。
「えーっと、確か転入してきたのが小3で、当時は誰にも心開かなかったの。休み時間と給食、体育の時も一人。たまにクラスの違う小中君が来るんだけど、当時彼かなり人気で、余計にそれが気に入らない女子に虐められてたのよ」
「…誰か教えて?」
「そーね、ちょっと捌いたろうかしら」
「ちょ、二人とも落ち着いてよ! 別に過去のことなんだから!」
いや、本当にお灸を据えに行きたいんだけど、結局綺紀に止められた。
「……えー、それでね。確かあの日も今日みたいな運動会でね、人が変わったみたいに指揮したりして、そしたらいつの間にか今みたいになってた的な」
「「何があったのその騎馬戦?!」」
「何もないわよ!!」
驚くことは多いが、やはりいまいちピンとこない。
「…それで、高校生になってまた一緒になったんだけど、中学以上に笑ってるから、中学までの同級生みんなビックリしてたんだよね」
「そ、そーなんだー……」
何故か遠い目をする綺紀に気づかないまま三春はふと僕を見た。
「やっぱりマオちゃんたちと居たからかな? カスミさんも変わったし、やっぱりマオちゃんが居たからだと思うんだ!」
「まー、このじゃじゃ馬娘には振り回されるもんねー」
「ちょ、カスミ!」
「確かに」
「キキまでー!」
そう話していると、
「はーっはっは! 呑気に話していていいのかな?」
とA組のクラス委員『環 咲』、その付き添いで副委員長『千歳 知子』、そして優華がやってきた。
「フッフッフ、その余裕、我がA組に通用すると思っているのですか更識霞さん!」
「……なんで私なのよ」
一応委員長の霞はジトッと見る。
「フッ、いくらそちらに『騎神』がいようと、こちらには」
と優華を見て、
「傘木さんがいるのですよ! 彼女は類い稀なる天才! そして私とトモコ、そして!」
と今度は人差し指を一点に向ける。
「彼女がいる我々に勝てますか!」
「……一応その子、うちのクラスメイトなんだけど」
指されたのは、カナコだった。
「フッ。……実は突然怪我をしてしまって、人数が足りないのですよ」
「あー、こっちは一人余るもんね」
騎馬の数に上限下限はないが、四人揃わないとできないため、溢れる生徒はいる。現に彼女たちは三人しかいないのだ。
最も、クラスは違えど優華のグループにカナコは最近行動しているから大差ない気もするけど。
「…と、に、か、く! 私たちに勝利の女神様が降臨なさるのです、方法に負けを認めてもよろしかってよ?」
「ほーほー、私らに勝とうってかいい度胸ね! こっちはブレインのミハル!」
「え、わたし!?」
「そしてじゃじゃ馬マオ!」
「なんか嫌!」
「そして『騎神様』!」
「やめてー!」
「……私ら無敵の編成に勝てるかしら、もやしっ子が」
走行睨み続けていたところ、今度は一人の制服姿の女子が近づいてきた。リボンの色は緑、二年生だ。
「どーもどーも、注目選手が集まっていたのできちゃいました。取材班兼放送班『凛堂』です!」
ボイスレコーダーとメモ帳を両手に、彼女はニコニコしていた。
「聞いた話だと両者とも互いが脅威と思っているようですねー」
何か引っかかる物言いで、霞が動く。
「……なんですか、まるでまだいるみたいな」
「はい。むしろ他の人たちは彼らの行動に注意するでしょう」
と目を向けたのは、C組だった。
「ここだけの話、実は裏でC組が何か企んだらしいですよ? 火付け役は沢上、柴田、小中、そして平和」
「……何企んだの?」
「それはお答えできません。これでもジャーナリスト、下手に情報漏洩はしませんよー?」
と言い残し、
「では、楽しみにしてますねー!」
と去っていった。
「…なんだったんだろーね、ま––––」
苦笑いした三春は、瞬間たじろぐ。
それを見た全員が注目した少女に、同様の動きをしていたが、彼女には通じていなかった。
「さて、そろそろやるか」
「……おいユウマ」
何故か肩を叩かれ振り返ると、信木が若干引き気味になっていた。よく見ると、何故か周りも高まった熱が鎮火されている。てか青い。
「おい、どうなってんだこれ!」
そんな俺に、一が耳打ちする。
「……横目で、悟られないようにB組を見ろ」
言われるがまま、そーっと目だけを向けた。
「………」
…なるほど。しかしこれしきで落ちるなら再燃焼も可能だろ。
「…………よ〜しお前ら! 絶対負けないぞ〜!!」
「おい誰か木刀持ってこい!! ユウマが上ずってるぞ!?」
「あ、ユウマが倒れた!?」