もう一つの犬猿 2
「やめろバカ、日本で揉め事起こすな。警察とか面倒なのに絡まれかねないから」
マジで少し前、自重なしに問題起こしかけて本当に厄介になりかけた実体験から学んだ俺は冷や冷やするが、二人はますます感情的になっていく。
ああ、ユウカは静観するし、あの犬猿どもは「仕事なので」とショッピングの荷物だけ持っていなくなるし。いや、こいつらも引き取ってくれよ。
「私自衛隊員だけどね」
「ふん、魔王に劣る役職風情が!」
「えー、でもそれって厨二病の役職っしょ?」
「……なんだって?」
「なーにー、やるっての?」
麻央が『厨二病』を理解するくらい馴染んだのかと思いながら、この二人の口論をどうすべきか考えているが、なんだろ、下手言えば飛び火しそうだ。
てかユウカはそう理解して早々に参加しなくなったのか。相変わらずの予測思考だな。
『オコマーク』が額に複数浮かんでそうな二人に、俺は白旗をあげることとした。
「……おい色男、これ止めろ」
「ハハハ、僕でもこの二人だけは止められそうにないなー」
俺は背後に、恐らく本当は偶然鉢合わせ、そして一緒に来たであろう男子二人になげた。
「いやいや、お前結構モテてたろハジメ。キャットファイト日常茶飯事だろ?」
「そんなことはないと思うけど、確かに仲裁は多少は得意だと思う。が、これは流石に火傷じゃ済まないね」
と、席を立つ音が二つ、そのままこちらへとやってきたので俺はつめ、外側の席のユウカに促された麻央も詰め、霞は二人が来ると渋々ユウカの隣に座ったので、二人は「じゃ、失礼するよ」と爽やかスマイルで俺の席に座る。お、やはり六人席がこうも埋まると落ち着く、謎の安心感。
いつもは五人だもんな……信木こねーかな。
「……はぁ…」
霞はため息をつくと、ようやく冷静になった目で俺を見る。
「……不細工な顔」
失敬な、と心で呟くが、瞬間手が先に出てた麻央を慌てて止める。
麻央は左手を拳銃のようにし立ち、ユウカの頭上から霞に向けていた銃口を手で塞ぐ。
あまりに一連の動きに躊躇いがなかったため、更識は後ろに青ざめて、後方に倒れそうな形でさがっていた。
「……なんて言ったの?」
「い、いやイケメンよね貴方の旦那はね! そうよね智!!」
「え、あ……そ、そうそう超カッケーよなユウマって!!」
いまだに一言も発せず、見た目に似合わず空気のように静かだった智は、突然ふられた話題に慌てふためきながらも話を合わせていた。そりゃ、その銃口がいきなり関係ないタイミングで向けられたら恐ろしいよな。同情する。一も「ナイスアドリブ!」と称えている。
「……そうよね! ぼ––––あたしの旦那は世界一、ううん銀河一かっこいいから!!」
と据わった瞳は輝きを取り戻し、いや増していた。「いや旦那じゃねーし」と即ツッコミを入れたいが、一応今だけは抑えておこう。若干満身創痍な更識の為にも。
しかしながらどうするべきか、この状況……麻央は完全に自分の世界に入ったし、しばらく余計な言葉が出ないように更識たちは言葉を選んでいるし、ユウカはマイペースにドリンクバーに行ったし。
正直なところ、文坂くらいの友達が麻央に必要だと思っている。麻央は社交性は高いが、今のようにたまに傷な面もある為、出来れば手綱を引けるくらいの存在が。
何よりほとんどは(勝手についてくるから)いつも一緒の俺でも無理な時はある。何より俺としか話さないは悪印象だと思うし、しかし他に仲がいいのは優華と文坂だけだが、優華は別クラス、文坂は彼女のコミュニティがあるはずなので簡単に頼めない。
優華は基本物静かでマイペースだが、別に人見知りでもないためか、入学式の日たまたま通った廊下で優華は楽しそうにクラスメイトの輪に入っていた。対して麻央は……俺を見つけると、周りの人達を無視してすぐに駆け寄ってきた。ああ、凄く心配だ、俺の方が。敵視凄かった。
麻央の自己中行動先行型には、正直なところ正体を理解していて、一度怖ろしい目にあっても再び現れるような更識は、きっといい親友になれるはずだ。
もっとも、今の麻央にその気があればいいが––––
––––ユウマ、『 』と普通に接してくれるユウマみたいな友達、出来るかな?
「…………あー、めんどくさ」
誰にも聞こえない声で呟いた俺は、しかしニヤつく口を抑えきれず、注目を集めるように不敵な笑みで立ち上がり、少し前に手に入れたスマホをポケットから取り出しコールする。
「……おうノブ、確か明日は定休だよな。明日河川で遊ぼうぜ。……おう、今すごく楽しい事考えたから。じゃ」
通話を終了し、注目する五人に向き直る。
「よし、明日河川で改めて話聞く。どうやらお前らにも事情があるだろうが、互いを知らないのはよくねーしな。せっかくだ、オリエンテーションしようぜ!」
『人のなりと本質と相性は、本気の《死闘》と《遊戯》でよく分かる』、俺の持論だ。