説教 4
「…なーに逃げようとしてるのかなー?」
こいつ、今いい感じに進んだろうになんて感の良さだ。
俺は見えないように展開した術式『エスケープ』を遠隔粉砕される。それこそまさに魔王たらしめる要因だよな。
「……あの、マオ様」
すると助け舟をルシーが––––
「私たち、今からどうしても松尾グループとの会談がありまして」
––––違った、こいつら俺を見捨てる気だ。
麻央は一瞬、強い魔力放出と眼光でルシーを威圧し、そしてため息をつく。
「…次の話があなたたちだから、それ終わったら行っていいわよ」
と、今度はルシーとギンキの間にしゃがむ。
「……そもそも『幸畑』はいいけど『坂棚』は誰がトップなのバク」
「え!? あ、えーと、マオ様です!!」
突然ふられたバクは慌てて答えた。
「そうよね? ……んで、何でその会談の話が僕に来ないわけ?」
「……申し訳ございません」
あー、なんかオーラが増してきたぞ。
しかし先ほど逃げる事をミスった俺は何もせずただ目を瞑って座るだけだ。
「ねえルシー、君いつからうっかりさんになったのかなー?」
「…お言葉ですがマオ様、貴方様は今は学生であり、その生活において大人社会の社交に参加させる手間を負わすわけにはいかないと独断で判断しました。処断は命でしょうか?」
なんか重い話になってきたぞ? 大丈夫か? こいつ麻央のためなら本気で死ぬぞ?
「……ルシー、あなたはよく出来た部下だと思っています。貴方ほどの人を部下に出来た事、僕はすごく誇らしいよ」
と今度は少し大人びた口調で、オーラも鎮まっていく。
ルシーはバッと顔をあげて目を見たのだろうが、チラッと俺がのぞいたときのルシーはきっと的外れな事を想像していて、結果顔面真っ青だった。
あ、きっと深淵見たな、と直感で理解した。普段物怖じしないギンキさえ目を逸らすほどに。
「……次からは小さなことでも報告しなさい」
「………承知しました、マイロード」
深々と震えながらの土下座は俺の心が痛かった。あれガチ切れだ。そして徐々に大きくなるやつだ。更には実行、指示した俺が一番最後だとわかった。ああ、すげー逃げたい。
「…行っていいわ。ハンサ、ギンキも。……ユウカ、マヤ、ミサも行っていいけどどうする?」
今回は触れなかったが、ハンサもギンキも恐らく優華に報告を忘れていた口だろうか、ギンキに至っては普段ルシーに関する弱みを突く事をしないまま無言で立ち去った。ルシーももう一度深く頭を下げて立ち去る。
俺はなんとか懇願する眼差しを舞夜と優華に向けるが、
「………今回は無理よ」
「…我もヤブは突つかんからな」
と立ち去ってしまった。
「…あら、ミサはいいの?」
「うん! 一応原因だし、ユウ兄心配だし」
唯一許されてなお残ってくれた天使に俺は心が痛くなる。いや、まじ小学生に心配される俺って……。
「サッカーうれしーな」
麻央は優しく頭を撫でて、
「……でもごめんねー」
麻央はそう言うと、俺の頭を力一杯蹴り飛ばした。