説教 2
『これより、葉坂高校運動会を開催します!』
皆がざわめき、多方面の来賓が見ている中で開会式は盛大に始まる。
葉坂高校はあらゆる面で注目校、運動会も一つのパフォーマンスとして人気があり、年間保護者除いても十数万の観客が来るとされ、世界的にもかなり有名になっている。
中には表に出てこない『葉坂ミサ』に会うためだけに来るものもいれば、莫大な資金で行われる運動会を鑑賞するだけのもの、中には高総体のための視察としてくる生徒……などなどだ。
そんな中、体育座りして壇上の校長の話を聞き流しながら更識は、隣に座っているカナコに話を振った。
「……あれ、正直マオって今どの程度起こっているの?」
「あーアレですか。多分魔界で反旗翻すくらいですかね」
なんともアッサリした答えにため息を溢す。
「常識的にそれガチギレよね。どうするの、このまま世界滅亡とか、私嫌よ?」
「そこはご心配なく」
彼女ははにかんだ表情で、
「あの人、ユウマさんへの恋心が先行しない限りは、もしかしたらユウカさんよりも誰よりも、イディオ一番の常識人ですから」
そう答えた彼女の言葉に嘘は感じなかった。
ひとまずは平和に、『私の親友』が何も起こさないことを願いつつ壇上に目線を戻した。
「…いいかマオ、普通運動会編は開会式から始まり閉会式で終わるんだ。だから」
「御託言って話逸らさないで、早く出して?」
ハイライト完全に消えた瞳が覗く。俺は正座し、隣では同じく正座してワナワナ震えているミサを見て何とも申し訳なくなる。
全方位囲まれているが、どうも囲んでいる皆、すごく真っ青である。
それもそうだろう、このドーム裏、森の中で麻央自身が結界を張り、その中でマフラーで技と抑えない魔力がヒシヒシと、本来感じることのないミサすら感じるほどの奔流に、皆立っているのがやっとなのだろう。
麻央は大剣を半分より深くザクッとさし、目線を合わせるようにつかに両手、顎を乗せる。
「土…水……火…あと風か光よね。闇はないかもだけど、まーめんどいから連帯責任かな? ……ねえユウマ、わかるなら出して?」
既にミサは限界だった。皆目を背けるし、さすがに小学生を泡吹かすわけにもいかないので、俺はため息を––––
「付きたいのはこっちよユウマ?」
––––つく前に、人差し指と親指を立てて銃のようにした右手が俺の眉間にとん、とつく。
「だーしーてー?」
つきかけた息を飲み、俺はスマホを出す。
「先に言っとくがリブは逃げやがった。あいつかなりサイバーネットに順応して、今じゃこのスマホ以外にいくつも母体を作っているから、あいつが逃げれば捜索はほぼ無理だ」
「わかった。でも首謀者でも実行者でもないでしょ? ––––ペットにしちゃうよ♪」
即スマホを置いて俺は立ち上がり、振り返ってスペースを瞬時に確認して高速で唱えた。
「『我が声に答え今すぐ出てこい! 精霊王!!』」
7つの円陣ができ、そして七人の『精霊王』が召喚されたが、俺の声音と、思い当たる節が大有りだったからか、一人除いて全員正座だった。
本来精霊王は神聖な存在で、召喚すら出来ないほどの高位な存在だが、麻央はニコッと臆することなかった。
「ユウマ、えらいねー」
ニコリと笑い、そして立ち上がり、右人差し指を上から下に向けた。
「じゃあ『全員正座』ね♪」
皆、何の不満もなく正座した。