説教 1
「……」
「マオ、どうしたの?」
「そろそろ始まっから行こーぜ」
小中と綺紀が声をかけるが、麻央はただ壁に手を当て睨んでいる。
そしてニコッと綺紀を向いて笑った。その他全員が青ざめるのと同時に。
「…カスミ、キキ、ちょっと三人でお花摘みしてくるから先生に謝っといて。……マヤ、ユウカ、ついてきて」
呼ばれた二人もビクッとするほど彼女は目が笑っておらず、振り返った先にタイミング悪く現れたルシー達も一瞬後ずさる。
「……ねえ、これ知ってたの?」
麻央はコンコンっと壁を叩く。ルシーは全力で、冷や汗を流しながらも無言で否定していた。
「…そっか。じゃあついてきてくれる?」
今度は肯定し、隣にいたギンキに目を向けると、彼も降伏の構えをとった。
「…あいつが心配だからついてくさ」
「じゃ、じゃあ私も!」
と横からカナコが声をはるが、
「いいよカナコ。そろそろ開会式始まるし……それにあなたはユウマに甘すぎるから」
普段誰よりも甘いはずの少女の言葉は重く、彼女は引き下がった。
ハンサはそろりそろり、と下がって振り返ったが、正面にいたのは麻央で、慌てた拍子に尻餅をついた。
「ハンサ? あなたは許してないのだけれど?」
「いや、だって僕も何かできるわけないですよ! ほら、僕戦闘特化じゃないし」
「あなたの頭脳が欲しいの。ユウマ、悪知恵よく働くから」
「えー、でもそれすら壊せるんじゃ––––はいお供します!! だからその手を収めてください魔王様!!」
勇者一行の一人とはとても思えない土下座を見せ、麻央は後ろを向いて歩き出した。その後を、呼ばれた全員が意気消沈に続く。
「……ありゃ、さしものユウマも死んだな」
小中は呟き、皆が同意した。
まあ、誰も湧磨を同情しなかったが。
「あれ? みんなどーしたの?」
と何事も知らない愛花が現れるまで、俺たちは立ち尽くしてしまったぐらいに。今日ほど『魔王』を身近に感じた事はなかったと思うのだった。