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彼が葉坂を連れ帰る。
その光景を窓から覗くと、ノックがした。
「いいわよ」
入ってきたのは娘の花。
「ユウマ君に悪いことしてない? 彼は私のかわいい後輩なのよ」
「フフ、随分お気に入りなのね? それじゃイナツ君が嫉妬するわよ?」
「も、もう! そういう冗談やめてよ!」
彼女は頬を赤らめる。
「...何もないならいいんだ。それよりお母さんはいつまでいるの?」
「ごめんね。またすぐ発つわ」
「そう...」
しょんぼりする花に近付き、頭を撫でる。
「でも約束するわ。運動会には絶対行く。二日目は一緒にご飯を食べて一緒に寝ましょ?」
「何でよ!?」
バッと離れた娘に、
「あーら? もしかして二日目はお愉しみかしら? じゃあ三日目が楽しみだから休み絶対取らないとね!」
「そこまできいたの!?」
さらに真っ赤になったのを見て楽しみ、そろそろ時間のため最後に再び頭を撫でる。
「......信じなさい彼を。そしてイナツを。あなたは私の子だから大丈夫よ」
手を離し、廊下に出る。
「じゃあ、楽しみにしてるわね」
去り際、花は笑って、
「うん! やってみせるよ!」
と名前のように笑った。
「恵さま、次のスケジュールには早いのでは?」
「良いわ。早められるものは全部頂戴」
秘書に伝え、ふと思い出し、
「...それと、『坂棚財閥』と『幸畑製薬』の交渉の場を取り付けなさい」
「は、承知しました」
彼は最後に言った。『出来れば出来たてで困っている煤野の『坂棚財閥』と傘木の『幸畑製薬』にアドバイスを欲しい』と。
彼は本当に切れ者かそうでないかわからないけれど、『全方面に手を伸ばす』私は恩人のために頑張ってみようと思う。
培ってきた私の目と、彼が守る学校を信じて。