真夜中のマジシャン 4
苦々しそうな男は、しかし右手を耳に当て、そして、
「……次は殺す」
と吐き捨て反対へ走り出した。
「逃すと思いますか」
島釜も追うが銃弾はかわされ、そのまま男は飛び降りた。
俺と島釜は下をみたが、明るい道に奴の死体はない。吐き台詞からして自殺ではないだろうが今時よくやるなと感心した。
「さーてと、帰るか」
「待ちなさい」
スーツ姿の島釜は、俺に銃口を向けていた。
俺も島釜の目を見る。
黒のオートマチックピストル。引き金をひくだけで撃たれる。
「悪いっすけど先輩、俺は別にアイツみたいにではないんすよ? ほら、よく怪盗モノって裕福な美少女の家に音もなく現れるってあるじゃないっすか。あれをやりたかっただけなんで許してください」
降参の意を持って両手を上げて弁明するが、下げるそぶりはないようだ。
「いや、まあ俺もここ数日迷惑してたんすよお宅のお嬢様にね。だってあなたにも相談できないことですし、でも俺相談系受けつけたことないっすのにねー。本当に早く運動会終わらねーかなって思う日は———」
「お嬢様に、二人三脚を辞退するように口添えしろ」
島釜は感情を感じない言葉を向ける。
「......」
無言でいると、さらに話し始めた。
「今回が初めてではない。以前もこの時期、学校外まで出るこの催しで一度危険な目にあった」
マジか、あのお嬢様去年も頑張ったのにこの男なびかなかったのか。これ脈なしだろうか? どう説明しようか。
「あのようなことがあり、校内外はより一層警戒が高まった。しかし年々強まった猛攻は去年の運動会から飛躍し、今回の運動会すら危ぶまれている。さらに火付け役がいたため、もはや当主様は大変心配なさっている」
やっと彼は感情を『怒』に振りまくった顔をし、
「お前が、『聖夜の魔法使い』という驚異的力が現れてから、常識すら壊れた!」
それにはさすがの俺も眉を顰める。
「いいか、私も当主様も、今回の一番の危険対象はお前を指す。そんなお前とお嬢様を一緒にさせるのは反対だ。だからここで手を引くと約束しろ」
「いや、まったくわけわかんねーよ」
俺が口を開くと、一発の銃弾が耳をかすめた。
「...二度はない」
牽制のつもりだろうが、ふと気になることができる。
「...なあ先輩」
「なんだ?」
「あんたは会長をどう思っている?」
「......何故聞く?」
「いやあんた、確か『自衛隊』の見解は様子見、そう『一特務中尉』は言ってたはずだ」
「私はあくまで当主に使える身。お前のことで再び任に就いただけだ」
「なら当主の言葉なら信じるんだな?」
そういうと、見ているかのようにその連絡が島釜の携帯に届く。
片方の拳銃をホルスターにしまい、そのメッセージを読んでさらに眉をしかめる。
「......どんな魔法だ?」
もう片方もしまい、
「付いてこい。当主が直々にお会いになるそうだ」
といい、今度はビルにヘリが現れた。
全く、最近の『本の虫』はAI超えるのかね? 俺はスマホを見て、見えないように笑った。