真夜中のマジシャン 3
着地したのは二キロ離れた6階ビル屋上。
「…はー、今なら見逃すがどうする?」
俺は微動だにせず、むしろ待っていたかのような黒コートの男と対面する。
見た目は同い年、身長と同じくらいの狙撃銃を置き、かわりに懐からナイフを二本取り出す。
「やる気十分、か。……後悔すんなよ!」
先手必勝。俺は奴の懐に潜り拳を振る。
相手は刃で防ごうとしたが、ナイフが俺の拳に触れた途端後方に飛ぶ。
「…リブ、あいつやべーわ」
『うん、すごく分かるよ』
無詠唱で『強化』し、奴の刀は刃こぼれを起こす。
「あれ、瞬時に『突き抜ける』って非常識を飲み込まなきゃできねーよな?」
『やばいねやばいねー、少し苦しい?』
「まさか」
俺はさらに接近するが、今度は刃物を投げ捨て、
「なっ……!?」
俺の拳を簡単に受け流し、蹴りが飛ぶ。
「『跳躍』!」
瞬間で受け流された方向へと飛ぶ。
あ、日本語になっちまった。
「………」
……あいつ嫌いだわ。あの涼しげな顔、サラッとした金髪、イケメンの殺し屋。あいつ嫌いだわ。
『どっかの騎士もどき』を思い出すから嫌いだ。
先に手を出したのはあちらだ。俺は情を捨て黒鉄の剣を出す。
「……!?」
流石にいきなり現れたら戸惑うだろうが、待つ気はない。
二撃、四撃、六撃……とくに型のない剣技を、さらに忍ばせてた短剣で受け流される。
「……このっ!」
「くっ……!」
蹴りを相手の腹にくらわせ距離を取る。
『……いやー、日本にもいるんだねー、化物は』
先程から囮なのかと思ってたが、この強さなら一人で頭おかしくはない。
その時だった。
『ユウマ南西方向上空! 何かくる!!』
「はあ?!」
俺はリブが告げた方向に目を向けた。
月に照らされて、パラグライダーが突っ込んできた。人間一人が逆さになって。
「離れろ!」
その声に俺はさらに後方へと下がると、銃声が響き渡った。
二丁拳銃のそいつは、パラグライダーから足を外し落下、ビルに華麗に着地した。
「……松尾花専属執事兼現自衛隊特務大尉『島釜伊夏』。邸宅を襲ったあなたを排除します」
無機質な声が、金髪の殺し屋に向けられた事は言うまでもない事だろう。