真夜中のマジシャン 2
「随分楽しそうなことしてたのね」
ただ来るのも忍びなかった俺が、一度家に戻って作ってきた菓子を渡すと、食後なのに早速一つ食べた。
「……ん! 美味しい!」
「そりゃよかった。平民食が合わないかとヒヤヒヤしました」
「そんなことないよー。私喫茶カミキにも行くし」
「毎度のご来店ありがとうございます」
そんな会話をしていると落ち着いたのか、花はため息を溢す。
「もー、イナツは堅い! 別にお母様は強要してないし、出ていくならお金だって援助するって言ってるのにね」
「まー、男で生まれた以上、義理と人情とプライドはある生き物っすからねー」
「ユウマくんにもあるのかい?」
「もちろん。ゲームでグータラ日がな一日が」
「それダメ人間じゃない…」
花に呆れられたところで、俺は本題に入ることにした。
「で、結局のところ分かりそうにないっすね。もしかしたら本当に気はないかも」
「そっか…」
シュンとした顔の花に、俺は別の見解も話す。
「ただ今の話だと会長は大事にされてる。過保護な程に。ならワンチャンあると俺は見ました」
「本当かい!!」
今度はグイッと身を乗り出す。
この人背とかを除けばかなり美少女の部類。これはこれで俺が困るんだが……。
「…まだ可能性です。人となりがまだ把握できない以上どちらも正確ではない為参考にして欲しくありません。だけど時間もないですし、マジで本番確かめるしかないかもしれない。
「まあとにかく、俺から言える事は––––」
瞬間殺気がし、俺はクッションを窓に投げた。
パリンッ、とガラスが割れ、クッションは射抜かれた。
既に花の身をかがめ、散らばる破片を背でうける。
最も、俺のパーカーはその程度で刺さらないし傷付かない。
「会長、怪我は?」
「うん、でも君は!?」
「ハハハ、大丈夫ならよかった」
入ってこない事、一発だけの銃弾、俺は相手が狙撃手と判断し、
「…じゃ、お開きっすね」
俺は散らばる破片を踏み歩く。
複数の足音が反対側からして、勢いよく開かれた。
「お嬢様!」
いの一番に入ったのは島釜だった。
俺と目があう。
「…まさか、あなたが賊とは」
発砲前に俺は外に出た。流石に敵でもない奴と一戦は交えないさ。
ただ真っ直ぐ、最速で、最短で、俺は跳躍した。