真夜中のマジシャン 1
「ご馳走様。シェフに伝えて、『今日も大変美味でした』と」
「ハッ、かしこまりました」
花は口を拭い、席を立つ。
廊下を歩く。後方では一人ついてきていたが、その存在を知っている彼女は口を開く。
「ねえイナツ、今日は放課後どうだった?」
「いえ、特に変わった事はございませんよお嬢様」
家では『お嬢様』と呼ぶ彼にもやっとする事はあるが、花は続ける。
「あと少しで運動会ね! あなたは2日目の二人三脚で誰と走るのかしら」
「私はお嬢様の安全のために参加致しません。校外はあまりに危険です。当日何が起こるかわからないため、警戒は厳重にしておりますのでご安心を」
「なんで!!」
花は叫び振り返る。伊夏は驚いた。
彼女が泣いていたから。
「あなた私と同じ高校生よ! 別に執事してって頼んでないから!!」
「…僭越ながらお嬢様。確かに拾ってくださったのはお嬢様ですが、養ってくださったのは当主の、あなたのお母上です。あの方への恩返しがあなたの専属執事。私はあなたの為になら私の命ひとつでさえお安い事で」
「もういい!!」
花は自室へと駆けていった。
「……ぐ…ふぇ………ぐすっ……」
自室のベッドに座って涙を流しては拭う彼女は、ふと、カーテンがはためいていることに気付いた。
「……もし…かして……賊が入った?」
彼女はカーテンのそばに近づき、覚悟を決めてパッと開く。
「残念外れ」
「ひゃ!?」
彼女は何もないカーテン側に転がってしまった。立ち上がった花は目を丸くし、
「……ユウマくん?」
「そ、あなたの劣等後輩『平和湧磨』でございます」
とお辞儀をした。