魔法世界に探偵は要るか 4
「……マジか」
オレは湧磨の呟きを聞く。
数分前、念のため湧磨に、駆けた後に一度森に入るように促す。
木々に身を潜めていると、オレたちを追ったであろう煤野と綺紀、遅れて更識に傘木に煤野妹が通り過ぎて行った。
「…アレは見えたってことか?」
『まー、文坂ちゃんにもだけど、結構強力にかけたのにさすがマオって感じね』
リブは感心した。こっちは心臓が止まりそうだった。
そのすぐ後に椎倉の指示で、下手に落ち合わないルートでオレたちは再び尾行を開始した。
「……なんもねー」
オレたちはしばらく歩くが、一向にスキャンダルじみたことを起こしてくれない。
道端の猫にお菓子を分け、老人の荷物を代わりに持ち、小さめの運動場にて同級生と日が落ちるまでサッカーをする。
「至って好青年だな」
「まあなー」
「当たり前よ!」
何故か葉坂が鼻を鳴らす。
「あの人は学年ぶっちぎりの優等生! 松尾花の付き人として編入し、一年であらゆる運動部に助っ人をしていたわね。彼が副会長職に就いて誰も文句言わなかったのはそこかしらね」
「へー、そー」
「…ユウ兄、どーでも良さそーだね」
「ま、あいつの眼鏡に敵わなかった、てことだな」
こいつ平穏平穏って言うが、他者の不幸を好む奴でもある。対して対象は好青年。多分飽きてきたんだろう。
まあ、好青年とか関係ないが。だってこの尾行って『思い人』を見つけるためのやつだからな。
「あ、ユウ兄! あれ」
運動場を後にした島釜を追い、オレたちは今度は森にいた。
「…入ってっちゃった」
「まあ、執事だもんな」
入ったのは豪邸だった。多分湧磨の態度的にここは『松尾邸』。ゴールしちゃったぞ、何もなく。
「でどーすんだ?」
「まーあ、ここまでかな。明日また探ってみるさ」
湧磨はそういい踵を返す。
「なんだよ無駄足じゃねーか」
とオレも踵を返し、
「ところで『剣道部』はいいのか?」
「……お前の今日の、本当のお節介相手はオレか」
ピタッと足が止まる。
湧磨は振り返り、
「お前せっかく剣道部に勧誘されてんだ。入ったらどーだ?」
「……お前にはカンケーねー」
あいつは止まるがオレは歩く。
「オレは剣道はもうしない。……もう傷つけたくねーんだよ」
「そー言うがな、ノブキ」
こいつが「キ」まで言う時は真剣で、オレは耳だけを傾ける。
「お前は強くなるべきだぞ。失う前に」
「……葉坂送ってく」
足を早め、オレはその場を去る。
「……分かってるさ」
あいつか、自分に呟く言葉は、今は誰にも届かない。