魔法世界に探偵は要るか 2
「へー、面白そうじゃん!」
のりきな椎倉は、どこから取り出したのかボイスレコーダー、人数分のインスタントカメラを広げた。
「『副会長汚職事件』の調査ねバァ!?」
湧磨はチョップした。
「違うわ! 『島釜伊夏に意中の相手がいるか』だ。それらしい人物か、あるいは会長を思う何かを取れれば終了だ」
「だがなユウマ、オレたちに潜伏スキルはないと思うぞ?」
現メンバーをぐるっと見回す。
湧磨は論外として、オレはそれなりに目立っているし、椎倉は何をするかわからない。葉坂に至っては……まず適応外。
「人選ミスだろユウマ……」
「……フッフッフ」
再び気色悪い笑いを浮かべた湧磨は、懐から四つの指輪を取り出した。
「……なんだお前、ロリ にホモか?」
「違うわ!! これには––––」
『透明化と、対象の認識強化、さらには念話搭載の魔道具なのだ!』
今度は辺りを見回しても声の主の姿はなく、しばらくして湧磨は険悪な顔でもう片方のソレを取り出す。
『ヤッホー! 高性能図書館だよ!!』
取り出したスマホに映された、紫混じりの緑髪のポニテ少女が元気に挨拶した。
『フッハッハッハ! 私は高性能大図書館! ユウマの魔法の補助を主軸に活動するスーパーサポーターさ! まあ、昔は『禁書』だったけど、今じゃ異界の端末さ! まあよろしく!!』
聞かずにペラペラと捲し立てるように話す彼女を、湧磨はスリープボタンで黙らせた。
数秒後に再び押した時、彼女は頬を膨らませて横になっていた。
『まったくー、ユウマは扱いがいつも荒くて困るなー』
「お前がおしゃべりだからだろうが」
改めて湧磨はスマホを芝生に置き、各々に指輪を渡した。
「つけてみればわかるが、リブの言う通りだ」
そういい、湧磨がそれをつけた瞬間に姿が消えた。
オレたちはキョロキョロと辺りを見回しても声をかけたが返事がなく、仕方なくそれをつけてみた。
「––––のあっ!?」
つけた途端、一歩も動いていなかった湧磨が突然現れ、オレは思わず尻餅をついてしまった。
「すごいすごい!!」
葉坂ははしゃぎ、
「…これで男子が歩いた時に女子のスカートを……」
と悪巧みする椎倉にチョップかます湧磨。
なるほど、とオレは一度とり、再びつける。
どうやら声も聞こえなくなるようで、付けたときの声はつけたやつにしか届かず、視認できず、気配がほとんど消えるようだ。
オレは試しに外したままで湧磨にパンチをしてみる。
「……こりゃ避けてるのか判断できんが」
と、オレは再びつけたとき、
「普通に聞け」
とスタンバってた湧磨にデコピンされた。
『さすがに物理は通るから、車とかには気をつけてね』
「なあ、質問いいか?」
「ああいいぞ?」
湧磨に促された。
「じゃあ聞くが、そもそもお前が使う『魔法』って、煤野たちのいた異世界でいえばどの程度の実力だ?」
実際湧磨は強い。魔法を扱えないこちら側にとっては脅威だ。だが、それがどの程度か、そしてそれ以上は存在するのか。
その答えに湧磨は少し悩むと、かわりにリブが口を開く。
『そーね。ユウマのみの魔法でも魔王軍幹部クラス、それこそ勇者一行に所属さえできる程度だね。そんなユウマの実力をさらに上げているのは私の『並列高速演算能力』があってこそだね。私込みなら、君たちの常識『チート』に位置付くと思うなー』
「なんか急に面倒なワードが出たぞ」
『言葉通りよ。『ただ同時に術式構築、それを高速化し、演算する』だけ。それによってユウマは、やろうとすれば『無詠唱』を超える詠唱が出来るよ?』
「『無詠唱』ってだけでチートのひとつな気がするけど」
すると椎倉が割って入ってきた。しかしリブはかぶりを振る。
【…私たちもそれが極めた者の終着点の一つと思ってた。私、実は生前は国家魔術師なのよ?』
突然のカミングアウトに皆言葉を失うが、変わらず話を続けた。
『…私は禁書に封印される『禁忌』に触れ、生きたまま『魔具』として、使用者に力だけを与える道具にされた。ユウマの前の使用者は運が良かった。彼とは話が合い、大きな戦争の後に名も無き祠に閉じて、それから千年眠ったわ。突然、三人の子供に易々と入られるまで』
その三人が容易に想像でき、オレたちはユウマに苦笑いする。
「……過去のことはいいから、それより尾行だ!」
ユウマは意気揚々とスマホを取り立ち上がる。
まるでこれ以上過去を掘り返させないように。