魔法世界に探偵は要るか 1
「なあ、本当にやらないのか? お前ほどの逸材には是非入って欲しいんだが」
「いや、バイトがあるんで無理っす!」
最近よく、二年にして次期主将の剣道部員『倉橋 東弥』を始めとする剣道部の面々に勧誘を受ける。オレ個人にその気はないが、彼らは引き下がるそぶりを見せない。
特に先輩の倉橋は、オレのことを高く評価しているようだ。
「知ってるだろ? 我が校では優秀な生徒には学費面の免除、学校専属の寮への優先入居権がある。お前ならそのぐらいわけないはずだ! お前は『神童』なんだから!!」
『神童』と言う言葉に俺は眉をピクッと反応していた。
それは決して嬉しくも、誇らしくもない、嫌悪な感情で満たす言葉。
「君は過去、小学生にして非公式だったが段持ちの大人に勝利した。各大会の強豪の集まる会場には私もいたが、君の剣捌きは見事だった! 私は君のような人と」
俺はそれ以上聞く気はなく、踵を返そうとした時だった。
「…グェ!?」
なんか遠くから見慣れた悪友が走ってきて、すれ違い際オレの後ろ襟首を掴まれ、そこから引きずられた。
「あだだダダダダダッ!」
「あ、先輩! 借りていきます!!」
オレの悲鳴を無視し、湧磨は止まることなく振り返って告げた。
「お前は殺す気か!」
「探偵やろうぜ!」
…噛み合わない会話に項垂れるが、いつものことだと考えるとひとまず気が落ち着いた。
「……いきなりなんだよ。見た目はガキでも『じっちゃんの名』もないだろ?」
「フッフッフ、そうだ!」
こいつはなんで胸張って言えるんだ? バカか?
要約すれば『島釜 伊夏』身辺調査だった。
話は大まかに聞いて、ここ最近の湧磨の行動に納得がいったが、その調査には少し渋ってしまう。
体育館裏壁に背を預け、俺は横で説明した湧磨に一番の疑問を問う。
「…なあ、素人がどう調べるんだ? 相手は一応執事だろ。後つけようとしても難しいだろうし、下手すればストーカーで捕まるぞ?」
「そこは抜かりないから大丈夫だ。それより助っ人も呼んでいるから紹介しよう」
なんでこんなにやる気なんだよ。そのやる気『霧隠し』に分けて欲しいぜ。
そうこうしていると、
「ユウにーちゃーん!!」
突然湧磨の背後に飛び乗った小さな人影が湧磨を転ばせた。
「…こいつが助っ人か?」
確かに理事長なら強力だが、当の本人はハテナを浮かべる。
「ハハハハハ!!」
続いて高笑いがオレの背筋を凍らす。
悪戯の後のしたり顔。その女は角から現れた。
「やあ、『霧隠し』以来ね二人とも」
オレはすぐ湧磨を見たが、今回は湧磨もしたり顔をしていた。