第一歩
そこは、清々しい空気が流れる穏やかな草原だった。
空にかかる雲が趣深く鮮やかな絵画を描き、澄んだ太陽光が地上を照らすが、だからと言ってジリジリとしたあの肌を射すような紫外線の痛みは少しも感じらない。その心地良さを一層増すかのように爽やかな風が吹いていて、その風が神酒の髪を釈くように草原の草を絡めながら駆け抜けていく。辺りには風と野鳥の歌声だけが優しく響き渡り、とてもでは無いがモンスターの棲む世界というイメージを持つことが出来ない。
陽の光を浴びて輝くように揺らめく草原の草の群れは、神酒が目を凝らしても届かないほどに遠い地平線の彼方まで続いていて、彼女はその日本では決して見ることが出来ないような絶景に、しばらく言葉を失っていた。
「・・・うわぁ!ホントに夢のような世界だね〜!!」
神酒はティムに、ドリームランドが多少危険な世界だということを聞いた時、もしかしたらそれは少しおぞましいような光景が広がっているかもと思っていたが、それは良い意味で大きく裏切られていた。神酒の目前に広がる世界は、とても言葉では言い表せないほどに穏やかで、優しさに溢れている。
もし神酒に急がなければならない事情が無いのならば、彼女はここですぐに昼寝を始めたことだろう。
『アハハ・・・、確かに夢の世界だよね。』
「ところでティム、こっちに1週間もいたら、お父さんたちの乗ってる船に間に合わないんじゃない?」
『大丈夫だよ。こっちの1週間は、せいぜい現実世界の数時間にしかならないから。』
やがて2人(?)は大きな河を見つけ、そこから川沿いを歩いていくと、1時間ほど経った頃に、遂に目的の大きな橋を見つけることが出来た。橋は吊り構造の木製の跳ね橋のようで、その向こうには西洋の中世の雰囲気を持つ大きな街が広がっている。街には質素だがよく整えられた石や木で出来た尖り屋根の家が多く並び、たくさんの人が行き交う姿が見え、生き活きとした生活感のあるざわめきが聞こえてくる。それだけでもこの街に活気があるという事が容易に理解でき、神酒は何かRPGのような冒険が始まるような予感がして、少しワクワクした気持ちが浮かび上がっていた。
「ティム。ここがウルタールっていう街だよね。」
『うん。別名は【ネコの街】。この街には昔からネコを大事にしなければいけないっていうルールがあるから、絶対にネコをいじめちゃダメだよ。』
「あたし、そんなことしないも〜ん☆」
2人は跳ね橋の前に立つと、お互いに向かい合った。ティムが神酒と一緒に来るのはここまで。後は彼女はリャンに会うまでは単独で行動することになる。
「じゃあティム。ここまでだね。また1週間後に会おうね☆」
『うん。くれぐれも危険な事はしないでね。何かあった時には、リャンに相談するんだよ。』
「うん。・・・そういえば、リャンってどの辺に住んでいるの?」
『ウルタールでは結構有名だから、すぐに見つかるよ。色白で美人な子だから。』
「へ〜、リャンって女の人だったんだ。」
そしてティムは神酒にバイバイ代わりに尻尾を振ると、元来た平原の向こうに駆け足で消えていった。
「なんであんなに急ぐのかな〜?」




