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ドリームランド

 ドリームランドについて、ティムは神酒の次のような説明をした。


 ドリームランドは文字通り夢を通してのみ辿り着くことができる世界で、そこは中世の地球に似た世界。普通の人間たちが生活し、日々の営みがあるが、同時に未知の領域や怪物たち、人間以外の種族も生活していて、ファンタジーやゲームの世界をイメージすれば、だいたいは間違いが無いということ。

もちろん夢の中であっても夜になれば眠るし、ケガもするし死ぬこともある。ただ夢の中にある世界というだけで、実質的には現実世界と大きな差は無いのである。

 ドリームランドに行くには最初に眠って夢を見ることから始まり、夢の中にある【浅き眠りの70段の階段】【深き眠りの門への700段の階段】を下りなければならない。するとやがて魔法の森へと到達することが出来るので、この森を抜ければ、ドリームランドの世界にたどり着くことが出来るということだった。


 ちなみに【夜の鍵】は、この【浅き眠りの70段の階段】に行くための道具。この鍵を身に付けて眠ることにより、ドリームランドへの扉が開かれるのである。


『ドリームランドは人の眠りに関わる世界だから、その影響は人間の深層心理に深く結びついている。だからキララたちに会う前に、先にそこから刺激やキッカケを与えておけば、実際に会った時にはミキのことを思い出す確率が高くなるんだ。』

「え〜と・・・、で、具体的のどうすればいいの?」

『ドリームランドに着いたら、【セレファイス】という王都を目指して。そこにクラネスという王がいるから、彼にお願いするんだ。ミキの事情を話せば、彼はきっと君の頼みを聞いてくれるよ。クラネスは元々こっちの世界の人間で、インスマスの出身者なんだ。』

「インスマスって・・・あのディープワンたちの街の?」

『そう。だからクトゥルーに関わってしまった君の事情は、多分一番理解してくれる人のはずだ。クラネス王の【夢見る】能力は、もう1万年もセレファイスを繁栄させ続けているほど強い。彼は温厚な人物として有名だっていうから、そこに頼みの綱があると思うんだ。』

「それじゃ、あたしがドリームランドに着いたら、そのセレファイスっていう都に行って、クラネス王という人に会えばいいのね?」

『うん、そういう事。』


「ティムも一緒に来てくれるんでしょ?」

『それが・・・さあ・・・。』

 ティムは苦笑いをすると、バツが悪そうに神酒に応えた。


『実は・・・ちょっと事情があって・・・。』

「え〜!?一緒に行ってくれないの〜?危険な所なんでしょ?」

『魔法の森を抜けてしまえば多分大丈夫かな。後は平原を真っ直ぐ進むと、とっても大きくてキレイな橋があるから、それを渡ると【ウルタール】っていう街に着く。そこにボクの友だちのリャンっていうのがいるから、後はリャンがセレファイスまで案内してくれるよ。』

「じゃあ、せめてその【魔法の森】を抜けるところまで、一緒に来てよ〜!」

『ボクが一緒に行っても、そんなに役に立たないんだけど・・・。』


 今日のティムは、なぜかいつもと違ってかなり滑舌が悪い。神酒はそのことを少し不審に思ったが、やがてティムは上目遣いでチラリと彼女を見ると、ため息をついて頭を下げた。


『そうだよね。ミキのことを一人で放り出すわけにもいかないよね。判った。ウルタールの入口まで、ボクも一緒に行くよ。でも後はそこから先は、リャンと一緒に動いてね。』

「ねえティム。いつものように【扉】は使えないの?」

『ドリームランドは人の意識の内側にある世界だから、ここでだけはボクの【扉】は使えないんだ。だから・・・ドリームランドって苦手なんだよね・・・。

 まあ他にも・・・イヤイヤ・・・。』

「?」


 ティムの少し奇妙な言動が気にかかったが、神酒はとにかくそのリャンという人物に会うまでの肯定を聞き、いかにそこまで順調に進めるかをティムと話し合った。彼の話だと、神酒が一番危機に陥る可能性があるのは魔法の森。そこさえ抜けてしまえば、後はモンスターの棲む世界であってもさほどの危険は無いだろうということだった。


「ねえティム、【エクスカリバー】とか無いの?」

『どこのRPG?それからもう一つ。これはとっても重要なことだから、よく聞いて。例えミキの目的が成功しても失敗しても、必ずドリームランド時間の1週間以内で帰ってくること!』

「どうして?船に間に合わなくなるから?」

『ううん。こっちの人間が向こうの世界に慣れちゃうと、体が向こうの環境に順応して変化しちゃうんだ。ミキの頭に角が生えたり、眼が3つになったり、肌の色が緑色になってもいいんなら、何年ドリームランドで生活してもいいけど?』

「・・・絶対に1週間で帰ります!」


 こうして神酒は、遂に夢の世界・ドリームランドへ赴くことになった。

 本来人間は、生まれついて誰でもドリームランドへ行く能力を持っている。それは大人になり、夢を見ることが少なくなるにつれて難しくなってはいくが、それでも出来ないということでは無い。ただ通常の夢とドリームランドへの夢との判別は難しく、それなりの能力や修行、アイテムなどを使って初めて行けるようになるのが通例だ。


 人間世界で最も有名な【夢見人】ランドルフ・カーターは、神秘のアイテム【銀の鍵】を用い、ドリームランドへの道を自由に行き来する。しかしただ【銀の鍵】があるだけではドリームランドへ到達することは出来ない。彼は幼い時に見た夢の中の夕映えに浮かぶ縞瑪瑙の城への想い、友人より託された夢見ることへの知識、そして長い修行と【銀の鍵】を用い、ドリームランドへの永遠のチケットを手に入れているのである。

 そしてティムが今用いようとしている【夜の鍵】も、おそらく【銀の鍵】と似たような性能があるのだろう。神酒にはカーターのような修行経験や想いは無いが、彼女にはティムという不思議な存在の協力や、神秘的とも言える運命の味方がいる。


 ティムと一緒にベッドに潜り込んだ神酒は、無事にドリームランドへ続く階段へと到達した。そして幸い魔法の森でも大きな驚異に出くわすことも無く、ティムの知り合いのリャンが待つという最初の街・ウルタールへ続く広大な平原にたどり着くことが出来たのだった。

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