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詩織の記憶

 奇妙な夢の眠りから覚めた詩織は、いつの間にか自室のベッドの上にいた。

 彼女は公園で眠り込んでしまった後に、真夢の報せで七海が家までおんぶで運んできたもので、結局彼女は眠ったまま朝を迎えてしまったということだった。

 今日は土曜の朝なのでゆったりした時間が流れていたが、朝食での話題はすっかりと詩織の居眠りのものになってしまい、繰り返し母や七海のからかいを聞き、詩織は少し居心地の悪い席となってしまった。

 詩織は真夢とは午後から遊ぶ約束をしていたので、午前は学校の宿題を終えるために自分の机に向かっていたが、昨夜見た夢がどうしても気にかかり、なかなか宿題に集中することができない。

 特に夢の中の女性が、自分の名を詩織が書いている物語と同じ主人公の名『高村神酒』と名乗ったことは、彼女の心の中に小さな引っかかりを残していた。


「ねえ、ナッちゃん(ナナミのこと)」

「どうしたの?シオリ」

 詩織はノートから目を離すと、隣の机で同じように勉強を進めている七海に話しかけた。

「ちょっと変な事聞いていいか?」

「シオリから変な事聞かれるのは慣れているよ。どうしたの?」

「最近ナッちゃんに、新しい友だち増えてない?」

「友だち?」

 七海は参考書から顔を上げると、不思議そうに詩織の顔を見た。


「高校に入学してから友だちは増えたけど、シオリに関係あるのはリコ以外だとシンディぐらいじゃ無い?そんなに目新しい友だちなんか、増えていないと思うけど。」

「ふ〜ん。ねえ、その同級生の中に【ミキ】って人いないか?」

「ミキ?」


 詩織は夢の内容の中で、その神酒という女性が近々現れるような発言をしたことをはっきりと覚えていた。だから神酒が七海と同じ歳ぐらいだったことを思い出し、七海のつながりでいないか聞いてみたのである。

「あたしのクラスに【ミキ】って名前の子はいないよ。」

「それじゃバスケには?」

「う〜ん・・。いないなぁ。」

「そうか〜。」

 期待していた答えが戻ってこなかったことに少し落胆した詩織だったが、その様子に敏感に気付いた七海は、すかさずその質問の意味を彼女に聞いた。


「シオリ。そのミキって、誰なの?」

「ううん!なんでも無いのだ。この前そういう名前の人に逢って、たまたまナッちゃんと同じぐらいの歳の人だったから、関係あるのかな〜って思って聞いただけなのだ!」

「ふ〜ん・・・。あ、そう言えば。」

 七海は学校での担任の言葉を思い出し、ふっと独り言を呟くように応えた。


「そう言えば、もうすぐウチのクラスに転校生が来るって言ってたかな。来週の始めぐらいに来るみたいだけど。」

「それ、どんな人?」

「知らないよ〜。男か女かも判らないし。」


 そして七海は勉強を切り上げると、午後から始まるバスケ部の準備を始めた。詩織はまだいくつか宿題が残っているが、先程の話が頭に残っていて混乱した様子が見える。それを気にした七海はため息をつくと、ヤレヤレといった様子で詩織の肩に手をかけた。


「判ったわよ、シオリ。その転校生がきたら、どんな転校生だったか教えてあげるよ。名前が【ミキ】だったら連れてくる。だから変に混乱してないで、いい加減勉強を続けなさい。」

「ホントか?」

「ホントホント。だから早く勉強終わらせちゃいな。」

「ヤッター!」

 そして詩織は一通り納得すると、改めて宿題とのにらめっこを始めた。

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