無い!
そして、それから2日後。神酒の姿はティムと共にウルタールにあった。
本来彼女はウルタールには戻らず、セレファイスから直接現実世界に戻るつもりだったが、リャンの死や神酒の決意の変化など報せなければいけない事が多かった他、パラケルススの飛行能力により時間に余裕ができたため、あえてアタルのもとに戻っていたのである。
またその途中にはもう一度リャンの眠るムナールに戻ろうともしていたが、『幻の大陸』と呼ばれるムナールはすでに姿を消していて、残念ながらリャンには再会出来ず終いだった。
神酒が一番心配していたのは、リャンの弟のトーニャの反応。本来神酒がセレファイス行きを希望しなければリャンは命を落とす必要は無かったし、セレファイスでは結局目的を果たさなかったのだから、彼女の心の中にはリャンだけでは無く、トーニャにもアタルにも申し訳ない気持ちでいっぱいだったのである。
しかし、彼らは決して神酒を責めはしなかった。トーニャはむしろ神酒に感謝している素振りすら見せていて、神酒が不思議に思いアタルとトーニャに聞いたところ、彼らは次のように話していた。
『ミキ様は、何か勘違いをされていませんか?ジムデライドを憎むことがあっても、なぜ私がミキ様を憎まなければいけないのですか?
兄のタオとの再会は、姉にとっての悲願でした。打ち捨てられていた兄の魂はミキ様に見つけられ、姉と共にバテストのもとに戻っていったのです。
もう逢えないのは少し寂しいですが、死に関する認識は、私とミキ様では少し違っているのではないでしょうか?
私たちと神々との距離は、おそらくミキ様が考えているより、もっと近い位置にあるのですよ。』
『ミキ殿。あなたはそれだけリャンのことを真剣に受け止めてくれているのだから、あの子には今頃後悔はありますまい。
しかし不思議なこともあるものです。兄のタオがいなくなってからというもの、リャンは他人に対してほとんど心を開くことは無かったが、ミキ殿とティム殿にはなぜか話は別じゃった。
もしかしたらリャンの運命は、バステトにより定められ、タオにより導かれたものだったのかも知れませんのう。』
神酒にはアタルとトーニャの言葉が本意なのか、それとも彼女を励ますための言葉だったのかは判らなかったが、それでもリャンの記憶は神酒の中に確かに息づいていて、一度紡いだ絆は決して消えることは無いと思っている。
リャンの墓前で結んだ【全てが終わったら、もう一度逢いに来る】という約束。
それはムナールが消え、ティムから離れ地上に戻れば困難なものになるはずだが、彼女はこの約束だけは絶対に守ろうと心に誓っていた。
『あたしは絶対にドリームランドに戻ってくる。そしてもう一度リャンに逢って、必ず彼女に【ありがとう】って言うんだ。あの時はまだ、あたしはその言葉を届けていなかったから・・・』
そして神酒は夢幻郷に別れを告げ、ルルイエへと戻っていった・・・。
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ルルイエからドリームランドへとたどった逆の道は、ティムの持つ【夜の鍵】の能力により省略され、気が付くと神酒はルルイエの彼女が眠りに就いた石造りの部屋に戻っていた。
そしていよいよ彼女の本体の目覚めが近づいたが、神酒はそこで大変な事に気付いてしまった。さっきまで肌身離さず持っていたはずの【夜の鍵】が、どこに落としたのか影も形も見当たらないのである。
【夜の鍵】は夢の世界と現実世界を結ぶもので、導入にも覚醒にも必要とされる祭器である。これが無ければ神酒は真の目覚めを迎えられず、結果として現実世界に戻ることが出来ない。
神酒は急いでティムに相談しようとしたが、彼は神酒の両親が乗る客船の様子を見に行ったために付近には見当たらず、彼女は焦り、とにかく鍵を探し回った。
「あ〜!見つからない!!」
慌てた神酒は、石部屋から『浅き眠りの70段の階段』を途中まで降りていったが、それでも鍵は見つからない。そして神酒は再び石部屋に戻ったのだが・・・。
彼女はそこで、信じられない体験をすることになるのである。




