2度目の別れ①
「シュン。見張り番、ご苦労さま☆」
「あ、ミキちゃん。」
「気付かなかったの?見張り番に頼りないな〜。」
「アハハ・・・、ごめんゴメン。」
神酒を見つめる瞬の目はとても穏やかで、あの彼特有のオドオドした様子は無い。それがたまたま今だけがそうなのか、それともこの2年の歳月が彼を変えたのか、それは神酒には判らない。
しかしその瞳の奥には揺らぎ無い神酒の姿が純粋に映されていて、その透明感に神酒の心は高揚し、そして相反するはずの冷静さも一緒に構築されていく。
「あの・・・シュン。一つ・・・聞いていい?」
思い詰めた心から搾り出したような神酒の問いに、シュンは優しい笑顔で答えた。
「なに?ミキちゃん。」
「シュン・・・あの日のこと憶えてる?」
「あの日って?」
「その・・・あたしがいなくなった日のこと・・・。」
神酒の質問に、瞬は少しだけ驚いたような表情を浮かべたが、すぐにまた元の笑顔に戻ると、コクンとうなずいた。
その瞬の表情には何かに気付いたような気配があり、神酒はこの時、自分の心と瞬の心が紡がれたような不思議な感覚を憶えた。
「ミキちゃん。ボクはあの日のこと、一度だって忘れたことは無いよ。ミキちゃんがボクに残してくれた言葉。ボクは一度だって手放したこと無いさ。」
「・・・シュン・・・。」
「ボクはあの時の言葉と一緒に、ミキちゃんの気持ち、大事に受け止めるつもりさ。」
そして瞬は神酒の右手を優しく握ると、そのまま自分の胸の傍に抱き寄せた。
神酒の心臓の鼓動が、瞬の体を通して彼女の耳へと伝わっていく・・・。
「シュ・・・シュン・・・?」
「高校を卒業したら、ボクと一緒になろう。ちょっと頼りないって思われるかも知れないけど、ミキちゃんのこと、ずっと大事にするよ。」
瞬の思わぬ行動に、もう神酒の心はときめきの頂点に達していた。顔は激しく赤面し、心臓の鼓動は今にも止まるのではと思うほどに急速なリズムを刻んでいる。
神酒は最初、この瞬の行動のままに自分の身を任せようと思っていた。彼女がほのかにも永く待ち望んでいたもの。夢見たものがここにある。しかし彼女が唇を瞬のそれに重ねようとした時、不意にもう一つの想いが突然浮かび上がってきた。
それは、七海の憂いた顔だった。
七海は神酒と瞬の代え難い親友の一人で、彼女と同じく瞬に想いを寄せる少女である。その気持ちは瞬にも届いていたはずで、彼にはまだ、七海への想いがどのようなものかを聞いたことは無い。
「・・・シュン。シュンは・・・ナミのことはいいの?」
「え?」
「あたしを選んでいいの?ナミじゃ無くて、ホントにあたしでいいの?」
「・・・ナナミちゃん・・・か。」
しかし瞬は七海の名に全く動揺すること無く、神酒にすぐに応えた。
その顔にはどこか影のようなものがあり、神酒の心に小さな違和感が生まれる。
「ナナミちゃんなんかより、ボクにはミキちゃんの方が大事だよ・・・。」
「・・・・え・・・・・・・?」
神酒はその瞬間、体が硬直するような衝撃を憶えた。
まるで体に電流が走るような、ある種の絶望を含む衝撃を。
「・・・そうか・・・そうだったんだ・・・。
あなたは・・・シュンじゃ無いんだ・・・。」




