小さな決心
神酒が懐かしい仲間たちとの再会を果たした夜。
彼女は輝蘭や七海、瞬や絵里子や詩織、そして真夢に囲まれ、もうこれ以上は無いというぐらいの喜びを味わっていた。
今までは夢の中でしか逢えなかった友人たち。そしてほのかな恋心を寄せていた瞬。
皆は神酒を心から喜び迎え入れ、あの時に残した無念を理解し、神酒の寂しかった想い、苦しかった体験を充分すぎるほどに受け止めてくれた。
それは神酒が真に望んでいた再会の形そのままのもので、少々奇怪な食材ながらも美味しいバーベキューを囲み、騒ぎ、歌を歌い、そして時間は過ぎていく。
いつしか宴は夜遅くまで続けられ、やがて詩織や真夢があくびを始めた頃に、ようやく再会の儀式の幕は、徐々に下ろされていくこととなった。
サルナスの崩れた遺跡の各所には、誰が持ち込んだのか人数分のハンモッグが準備してあり、仲間たちはそこを寝床に眠りに就いていく。
そしてバーベキューの会場はそのまま焚き火となり、とりあえず瞬が寝ずの番を引き受けることになったので、神酒も安心してハンモッグに潜り込んだ。
神酒は疲れていたので、多分すぐに眠れるだろうと思っていたが、意外に睡魔は彼女に迫ろうとすることを躊躇している様子である。しばらく彼女はハンモッグで寝返りを打ちながら睡魔の到来を待ちわびたが、結局それは現れず、神酒は寝床を抜け出すと焚き火に向かって歩きだした。
ふと神酒が空を見上げると、そこには満天の星が輝いている。
【碧玉の誉れ】号で起きた反乱から逃げ出した時には全く気付かなかったが、そこには手を伸ばせば届くような天空の宝石が散りばめられ、彼女は星空の下で、自分の喜びを強く噛み締めていた。
あるいは諦めなければならなかったかも知れない絆の再結。しかし仲間たちの笑顔は、それを杞憂として彼方に吹き飛ばしてくれた。
輝蘭は抱擁で神酒を迎え、瞬はガッツポーズをし、七海は涙を流し、絵里子は笑い、そして詩織と真夢は両腕に抱き着いてきた。
「何も違わない。あたしが望んだ、そのまんまだ・・・。」
そして神酒は小さな一筋の涙を流すと、彼女を祝福するように輝く星々に顔を向け、もう一度満面の笑みで応えて見せた。
やがて神酒は焚き火の灯りを確認すると、そのすぐ傍に瞬の姿を見つけた。瞬は瓦礫に腰掛け、焚き火の火を絶やさないように薪を焼べ、黙って炎を見つめている。
そんな瞬の姿を見た神酒の心の中に、遠くにあったはずのある想いが急速に甦ってきた。
ウォーカーフィールド基地で繰り広げられた最後の戦い。その戦いの果てに神酒に関する記憶は全て消去されたのだが、最後の場面で神酒は、瞬に彼女の想いを打ち明けていた。
【あのね。あたしの夢、聞いてくれる?】
【あたしね・・・あたしホントは・・・・・・】
【シュンのお嫁さんになりたかったんだ!】
【シュンのことが好き。大好き!】
【だから・・・・・だから・・・・・!】
ルルイエの暗い闇の中にいても、決して忘れることが無かった瞬への想い。それは2年の時を超え、遂に彼女の心に届けられる。
シュンが好きなのは、あたし?それともナミ?
鼓動の高まりは神酒の感情を押し上げ、夜空の星の煌めきが彼女を励ますようにそっと背中を押す。
神酒は小さな決心を胸に秘め、瞬の傍へと向かっていった・・・。




