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神酒とリャン

『・・・あの鳥だよ。』


 不意に神酒の後ろから、すこしぶっきらぼうな声が聞こえた。振り向くとそこには、目を逸らして立つリャンの姿が見える。リャンは何か言いたそうにモジモジしていて、その本意が口に出せないでいる雰囲気がある。おそらくリャンが今口に出した鳥の話題は彼女の本意の呼び水だろうと神酒は感じ取り、とにかく彼女の話に耳を傾けた。


「鳥?鳥がどうしたの?」

『鈍いな・・・。アンタがセレファイスに行く方法だよ。』

「?・・・・・・!!」


 神酒ははっとして森の上空を飛び回る鳥に目を移し、すぐにまたリャンの顔を見た。


「まさか、あの鳥に・・・?。」

『そう。乗るの。抵抗ある?』

「え〜!!?」


『そんなに驚くこと無いよ。あの鳥は【シャンタク鳥】って言って、きちんと契約すれば言うこと聞いてくれる鳥だから。』

「・・・ホント?落ちたり食べられたりしない?」

『ああ。まぁ野生の奴は人を食べるのもいるけど、だいたいは大丈夫だよ。3日もしたらセレネス海の小島に着くから、後はウチと一緒に契約したシャンタク鳥に乗れば、セレファイスなんてあっという間だよ。』

「ううう・・、なんか心配だ・・・。」

『アタル様から、アンタが船に乗ってから伝えるようにって言われてたから、確かに伝えたよ。』

「なんで船に乗ってから?」

『さあ。ゴネられるとでも思ったんじゃない?』

「・・・見透かされてる・・・。」


 するとリャンは、さっきと同じように神酒から目を背け、再び何かモジモジと恥ずかしそうな仕草を始めた。

 すかさず神酒の世話焼きおばさん的勘がピンと働く。


『・・・ところでさあ・・・ミキ・・・その〜、ティムのことなんだけど・・・。』

「フフフ・・・いい展開☆」

『なんか言った?』

「なんにも♪♪・・で、ティムがどうしたの?」

『・・・ティムって・・・覚醒世界で仲のいい子とかいるの?』

「仲のいい子?」


 神酒はちょっとだけ考え込んだが、すぐにいつもティムと一緒にいた、元気のいい2人の可愛らしい少女たちの顔が思い浮かんだ。

「仲のいい子っていうと・・・シオリちゃんとマムちゃんかな?」

『ええ?それってどんな子!?』

「どっちも可愛くて、とってもいい子だよ♪」

『・・・・・・。』


 神酒の言葉を聞いてすっかり黙ってしまったリャンを見て、少し的外れな発言だったかと反省した神酒は、すぐにフォローの言葉を続けた。リャンはどこか困ったような悔しそうな表情を浮かべているが、それがいつもの粗暴な彼女のイメージから大きくかけ離れていて、今はリャンがとても可愛らしく見える。


「でも・・シオリちゃんもマムちゃんも人間だよ♪」

『ヘ・・・?』

「ティムが仲良しのネコなんて見たことないな〜☆」

『あ〜!判っててからかいやがったなー!!』


 神酒の勘違いに気付いたリャンは、顔を赤くしながら神酒を威嚇するようににらみつけたが、神酒はリャンの態度を予想していたのか、少しも気にせずにニッコリと笑うと、彼女の目線をリャンに合わせた。

 その視線はどこかティムに似たところがあり、リャンは思わず少し怯んだ様子を見せた。


「エヘヘ・・・ゴメン。だから多分、ティムのネコの仲良しはリャンが第一号だと思うよ。」

『え・・・ウチが?』

「ティムって仲良しの人間は多いけど、ネコの仲良しって見たこと無いな〜。」

『ふ、ふ〜ん・・・』

「だから・・・。」

 そして神酒はリャンのすぐ横に腰を下ろし、ゆっくりと彼女の想いをリャンに伝えた。


「だからリャンみたいな子にティムと仲良くしてもらえると、あたしはすっごく嬉しいな☆」


 この後、リャンは怒ったような恥ずかしいような複雑な表情をしながらも、結局何も言わずに立ち去ってしまった。しかしそれからしばらくするうちにリャンは神酒の傍でくつろぎ、相変わらずぶっきらぼうながらも彼女と会話をするようになったのである。

 リャンが神酒のことを気に入ったのかどうかは判らない。しかし神酒はリャンの不器用さや要領の悪さがどうにも可愛らしく感じ、気が付けばリャンのことが大のお気に入りになってしまっていたのだった。

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