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3枚の御札とナス=ホルタース

 次の日の朝。まだガレー船が到着していない早朝に目覚めた神酒は、朝食の後にアタルから神殿の中を案内してもらうことになった。この神殿はウルタールのネコたちの象徴とも言えるネコ神バステトの神殿だが、それと一緒にドリームランドで善を象徴するいくつかの神々も祀られていて、それらの説明を彼女は興味深々で聞いていた。


 ドリームランドでは最もポピュラーな神としては、双頭の獣神ナス=ホルタースや戦の女神ヌトセ=カアンブルが有名だが、邪神や旧支配者・外なる神を崇める種族も少なくない。特に神酒が一度襲われたことがあるニャルラトテップもドリームランドでは信仰の対象となっていて、現実世界と比べて人間と神との距離が非常に近い世界だと神酒は理解することができた。


「あたしね、実はずっと前に、一回ニャルラトテップに目を付けられたことがあるんだけど。」

『それは不幸中の幸いでしたな。ニャルラトテップの気紛れで命を落とした者は多い。』

「また見つかったらどうしよ?」

『目立たないように動くだけです。この度のあなたの動向は、別に彼らの気持ちを逆撫でするようなものでは無い。あなたの護衛は最小に抑えますので、素早く目的を果たして早々に覚醒世界にお戻りになるのが一番でしょう。』


 そして神酒とアタルは旅の無事を願うため、神殿の中の神々に手を合わせて祈りを捧げたが、神殿から出る途中、彼女はある神像が気になり足を止めてその像を振り返った。


 それは、アタルからナス=ホルタースという名を告げられた、二つの頭を持つ獣の姿をした神の石像だった。ナス=ホルタースは主に神酒がこれから向かおうとしているセレファイスで信仰されている神で、月から来た夢を守護する神と言われている。


『どうしました?ナス=ホルタースが気になりますかな?』

「うん。なんだか惹かれるんだよね。あたしこういうの趣味だったかな?」


 するとアタルはホッホと笑いながら石像を見上げ、再び呪文のような祈りを捧げた。


『ナス=ホルタースは偉大な神で、信仰する者の悪夢を退け、その黒き従者を遣わしてくださると言われておる。ミキ殿がナス=ホルタースに惹かれるというのであれば、もしかしたら特別にあなたの守護に付いてくださっているのかも知れませんのう。』

「ええ?だったらピンチの時とか助けてくれるの?」

『もし真の従者の名前を知っておればの。』

「アタル様、知ってるの?」

『それは一部の信者の方々しか知りますまい。』

「な〜んだ。」


 するとそこにリャンが現れた。リャンはすこぶる機嫌が悪いようで、神酒は笑顔で手を上げたがそれを無視し、まるで喰ってかかるようにアタルに言った。


『アタル様!』

『おおリャン。朝から威勢がいいようじゃが、どうかしたかの?』

 するとリャンは一度神酒を見てから、再び大声を上げた。


『ウチが一人であの人間の護衛って、どういうことですか!?』

『何も不思議なことはあるまい。リャンは小さいが武力に長けておるし、ミキ殿を目立たないようにセレファイスに送り届けるには、護衛は少ない方がいい。』

『だからってウチが一匹でか!?』

『定期航路での旅じゃ。特に大きな危険もあるまい。』

『だったら、その人間だけ行かせりゃいいじゃん!』

『リャン!この度のお主の仕事は、護衛もそうじゃが道案内も大事な使命じゃ!それにお主はウルタールから離れたことなどほとんど無いのじゃから、見聞が狭い。しばらくミキ殿に同行し、大いなる邪神と対峙し続けたミキ殿から見識というものを学んでくるがよい!』

 

 アタルに一括されたリャンは、小さく舌打ちをすると神酒をにらみ、そのまま神殿の外へ飛び出してしまった。アタルはいくら老人とは言え、やはり一族をまとめる指導者としての威厳があるのだろう。どんなにリャンに跳ねっ返りの気質があっても、そこは従わなければならないような言葉の力がある。


『すみませんのう、ミキ殿。』

 アタルは神酒に向き直すと、深々と頭を下げた。


『あれも本当は素直な子のはずなのだが、いかんせん世間知らずなところがあっての。護衛としての腕はあるのだが、まだまだ学ばなければならない事は多い。』

「え?それじゃ、あたしとリャンの2人だけで行くの?」

『セレファイスまでの道案内の交換条件というわけでは無いが、ここはあの子のためにも、一つ引き受けてもらえはせんかの?』

「それは全然構わないけど・・・仲良くできるかな?」

 

 神酒の最後の問いに、アタルはただ笑顔を作っただけで何も答えなかった。神酒はなんとなく、アタルにもそれなりの思惑があるのだろうと思ったが、ドリームランドがモンスターの棲む世界とは言え、彼女たちが進む船の航路に危険はほとんど無いという話だったので、特に問題は無いだろうと判断した。

 リャンとは徐々に仲を深めながら観光気分で行こうというのが神酒の考えだったが、ただ船で進むだけでは期日通りにセレファイスには到着しないということを聞き、そこだけが心配の種だったが、何かアタルたちに秘密の案がある雰囲気だったので、とりあえず黙って従うことにしていた。


 神酒たちが向かうセレファイスに行くには、まずウルタールからスカイ河を下り、ドリームランドの中央に広がるセレネル海に出なければならない。その途中にはいくつかの街が点在し、そこで食料の補給や宿泊をしながら進むのが一般の方法で、その途中には危険な水棲生物や、場所によっては巨大なシャンタク鳥の出現する場所も含まれているが、ガレー船には火薬を使った大筒が準備してある他、護衛となる魔術師や傭兵も常時滞在している。

 以前には状況を把握していないモンスターが船に襲いかかることもあったが、今はモンスターどももガレー船を襲うと痛い目に遭うということを学習しているので、まず襲われる心配は無いということだった。

 

 また神酒とリャンが船に乗り込む前、神酒はアタルから1本の杖と3束のスクロール(巻物)を預かった。

挿絵(By みてみん)

 杖は本来の目的と武器のため。そしてスクロールは万が一彼女たちが危険な状況に陥ってしまった場合のために渡されたもので、中には呪文書【セラエノ断章】の著者として有名なラバン・シュリュズベリイ博士が、セラエノ星団から持ち帰ったと囁かれている呪文の一部が書き込んである。これらはどれも邪神やクリーチャーからの驚異を退けるためのもので、それを読まなくてもスクロールを開くだけで効果が発揮されるという優れた魔法具ということだった。

 但しスクロールは使い捨てで一度しか効力を発揮しないため、簡単に言えば計3本で3度しか使えないということになる。もしどうしてもスクロールに頼らなければならない場面に遭遇したなら、使いどころとタイミングを良く考えるようにと、アタルより重ねて説明された。


 そして・・・

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