リャンとトーニャとアタル
するとリャンは神酒に近づき、今度は彼女を無視して辺りをキョロキョロすると、再び神酒をキッとにらんでキツい口調で言葉をぶつけてきた。
『で、ところでティムはどこにいるの?』
「ティム?ティムはいないよ。」
『なに〜!!?あんニャロ〜!またウチの前から逃げやがって〜!!』
どうやらリャンの怒りが爆発したようで、彼女はまるで地団駄を踏むように後ろ足をバタバタさせ、前足のツメで地面を引っ掻いた。彼女は間違い無く雌ネコだが、その言葉遣いは性格の悪い男性のように聞こえる。それがまるでティムを敵視し、殺してしまいそうな勢いがあるのだから神酒の心中も穏やかでは無い。
「・・・ねえ、リャン。」
『いきなり名前呼びかい?まあいいけどね。』
「ゴメン。ティムって、リャンに何かしたの?」
『何かしたかだ〜!?』
リャンはまるで噛み付くかのように、神酒に答えた。
『ウチはティムの嫁なんだよ!!』
・・・・・・・・・・・え?
「ええ〜!!??」
『なんだよ!何かおかしいかい!?』
「いや、そんな、ええ〜!!??」
『あのヤロ〜!ウチがドリームランドから出られないのをいいことに、もう何年もほったらかして!会ったら只じゃ済まさねえからな!』
そしてリャンは一度フンと鼻を鳴らすと、そのままウルタールの夜の闇の中に消えてしまった。
「ああ〜、ちょっと待ってよ!」
やっと意中のネコを見つけて少し安心していた神酒だったが、思わぬ展開に彼女はどうしようかと不安になったが、それは長くは続かなかった。やがて今度はネコの群れの中から白に茶色のブチのネコが近づいて来ると神酒の前に静止し、リャンと同じように彼女に話しかけてきたのである。
『姉が失礼しました。私はリャンの弟のトーニャと言います。』
「ああ・・・どうも、ミキです。」
『姉のリャンは性格が荒いので、大変ご迷惑をおかけします。バステト(ネコの神)の神殿で我々の指導者たる賢者アタル様がお待ちです。どうかご同行を願います。』
「そのアタルっていう方も・・・ネコ?」
『いいえ。ですが古くよりウルタールのネコたちの精神的なリーダーとしてご尽力されている方です。食事のほうも準備しておりますので、どうか失礼の無いように。」
「あ・・はい。」
そして神酒はブチネコのトーニャの後ろから付いていくと、赤と白の尖塔がある立派な建物へと向かっていった。
「あ〜、なんだかティムがドリームランドに来たがらない理由、判った気がする・・・」
神酒がネコ神バステトの神殿に通された後、殺風景な石造りの小部屋に通され、そこで食事にありつくことができた。食事のメニューはきちんと調理された暖かい物で、どのような種類の肉や野菜が使われたものかは判らなかったが、彼女にとっては満足できるものだった。
その後2匹のネコを従えた1人の老人が彼女の部屋を訪れ、その老人こそがウルタールのネコたちの指導者であるアタルと名乗り、神酒に今後彼女がたどるべき予定について伝えた。
ちなみに従えられた2匹のネコは、リャンとトーニャである。
アタルが言うことによると、明日はウルタールに定期便のガレー船が到着するので、それに乗り旅を続ければ良いとのこと。但しクラネス王のいるセレファイスまでは1週間の期日では到着しない可能性があるため、道中は状況をみながら方法を考えなければならないということだった。
「行くまで1週間もかかるの?帰りは?」
『お主はティム殿より【夜の鍵】を預かっておるのであろう。【夜の鍵】があるのであれば、どこからでも覚醒の世界(現実世界)に帰ることはできる。』
「へ〜、そうなのか。」
そして神酒は神殿内の人間用の寝室に通され、明朝までゆっくり休むようにとアタルに勧められた。




