騎士のシゴト
処女作なのであたたかく見守ってやってください
「おい、ちょっと! 」
歩道にチンピラの大声が響く。通行人たちは何事か、と目を見開いて歩みを止める。もっとも、声をかけられたであろう俺は、歩行速度を緩めるわけでもなく舗装道路を歩いていく。
「おい、コラァ! てめェに言ってんだぞ ああァ!?」
大柄なチンピラに肩を押され、ようやく立ち止まってやる。
振り返り、こっちを睨んでいるいかにもといったチンピラを鋭い目で見下ろす。
一人目、のっぺりした顔に細い目、眉毛のところに切り傷がある。
二人目、彫りの深すぎる顔で、眉毛がなく鼻がデカい。モアイみたい。
三人目、小太りで、髪が薄い代わりに髭が濃い。上下逆さまの方がいい。
このズッコケ三人組は俺を睨み返す。
「俺? 俺に言ってんのお前?」
「他に誰がいんだよボケェ!」
「何?」
とぼけた俺に腹が立ったのか、さらに語気を強めて怒鳴りつける。
「てめェみたいなのにチンタラ我がもの顔で歩かれてたら歩行者に迷惑かかるんだわァ!いっぺんボコボコにしねェとわかんねェか!? ああァ!?」
「ちょッ、ダン・・・喧嘩したいからって難癖つけすぎ! はははは!」
「あァ!? 俺はホントにこのカス野郎に鉄槌をくだしてェんだよ! 文句あんのォ!? ぶははははは!」
「は?・・・」
道のど真ん中で騒いでる方が迷惑だろ、と思いながら通行が止まっているその場を去ろうとする。ところでモアイ男の名前はダンというらしい。どうでもいい。
「おいィ、帰れると思ってんのォ? とにかく殴らせろやッ!」
三人につかまれそのままビルとビルの影へと連れ込まれる。
その場にいた通行人たちはチンピラにからまれるのが嫌なので、皆何事もなかったかのように歩き出した。
「がァッ・・・」
みぞおちに入れられた膝蹴りに耐えられるわけもなく、モアイは先の二人のように地面にどさりと倒れる。さっきの威勢はどこへやら、三人ともうずくまって地面に横たわっている。
「おい」
呼びかける。
返事はない。
「おーい!」
モアイに近づきながら、さっきより声を大きくして呼ぶ。
やはり返事はない。
「ッおォーい!」
倒れたモアイの頭を体重をかけブーツで踏みつける。モアイの体が少し痙攣したように震える。
「ッす・・・すいません・・・許して・・・」
「ああァ?」
踏みつけたままの足でぐりぐりと地面に押し付ける。
「何? 何? マジ? マジに言ってるのそれェ? 喧嘩売っといてェ?」
「ホントにすんません・・・もうこんなことしません・・・マジ見逃してください・・・」
それを聞いて足を上げる。
許されたのか、そう思い顔を上げるモアイ。
だが、その考えは間違いだった。
モアイが目にした物はブーツの裏であった。
次の瞬間、上げた顔をもう一度、さっきよりも強く思い切り地面に叩きつける。
「許すわけねェじゃん。ゴロ巻く相手間違えてんじゃねェぞ。クソチンピラが、騎士舐めんなよ」
「き・・・騎・・・・・・士?」
そうして動かなくなった三人のポケットをまさぐる。
お目当ての物を見つけ、順番に取り出す。
「1…2…3…4…合計4万。慰謝料にもらっといてやるよ。それで示談だ」
小銭は取り出さず紙幣だけを取り出し、自分のポケットにねじ込んだ。
「じゃあな、クソ共」
サイフを投げ捨て、また歩道へ出て行った。
この男、まぎれもなく騎士。名をジョン・ソーバーンという。
騎士団入団6年目。200番隊近くある騎士隊の200番隊という逆にすごい隊の隊長をやっている。
ただし隊長と言っても隊員はいない。騎士団は人員不足なのだ。
もっとも、人員不足じゃなければジョンが騎士になることはなかっただろう。
「ん・・・?・・・」
騎士団の本部に行くとやたらに混雑している。