第5話
「綺麗だよ」
「え…?」
聞こえてきた言葉に耳を疑った。
「今、なんて…」
「だから、綺麗な瞳だよって言ったの」
今までずっと嫌われてきた。この瞳のせいで。
『気持ち悪い』
『こっちを見るな』
『呪われた瞳』
『目が合うと呪われる』
数々の罵詈雑言。そのせいで僕はいつしか俯いて瞳が見えないように話すようになっていた。
でも、君は違った。
「綺麗な瞳」そう言ってくれたんだ。
そう思った瞬間、涙が零れ落ちた。
「え…な、なんで泣いてるの?」
向日葵ちゃんはおろおろしている。
でも、涙が止まらない。
「う、れしい…っ」
泣きながらなんとかそう伝えた。
「嬉しい…?どうして?」彼女は不思議そうな顔で、こちらを見ている。
「だって…初めてっ…言われた…ひっく」
涙が視界をぼやけさせていく。
向日葵ちゃんの顔が見えない。
ふいに暖かいものに包まれた。
「…」
向日葵ちゃんに抱きしめられている。
「え…と…」僕は驚きで硬直してしまった。
「ずっと…辛かったんだね」
向日葵ちゃんが優しく語りかけてくる。
「う、ん…っ」
「もう、楽にしていいんだよ」
「うん…っうん…!」
その後僕は向日葵に抱きしめられながら泣きじゃくった。その間も彼女は僕の背中をそっとさすりながら黙っていてくれた。
どれほど経っただろうか。
「もう落ち着いた?」
「うん…ありがとう」
僕はそっと向日葵ちゃんから離れた。
「ううん。お役にたてたならよかった」
そう言ってふわっと笑う。
あぁ…とても温かい気持ちになる。
何だろうこの気持ち。
「…どうしたの?ぼーっとして」向日葵ちゃんに声をかけられてはっと我に返る。
「う、ううん。なんでもないよ」「そう?ならいいけど…」
そう言って向日葵ちゃんは空を見上げた。
青空の中で鳥が舞っている。
「鳥は自由だね。私も鳥になりたかった」
小さく彼女は呟いた。
僕も視線も空に向けた。
太陽がいつもより何故か眩しく思えた。