第3話
僕とひまわりの間を風が駆け抜ける。
その子はひまわりに水やりをしていた。
何か歌を口ずさんでいる。
僕がぼーっと見とれていると女の子と目があった。
「あ…」
女の子は驚いた様に目を丸くした。
「…っ。ご、ごめんなさい…!すぐ帰ります!」僕が慌てて言うとその子は、
「君…私が見えるの…?」と呟いた。
「え…?」僕は首を傾げた。
見えるとはどういうことだろう。
そんな事を考えてるうちに、その子はひまわりを掻き分けながら、僕の方へとやって来た。
僕は慌てて俯く。
「君の名前は?」
優しい声。とても優しくて柔らかくて落ち着く…。
「ぼ、僕は如月紅蓮…です…」
やっぱり緊張して声が擦れてしまう。
それもそうだ。
あんまり女の子と話した事がないから。
「紅蓮くんか…私は向日葵っていうの。よろしくね」向日葵ちゃんはそう言って僕に微笑みかけた。
「う、うん…」
胸がドキドキする。なんだろう、このざわめき。
向日葵ちゃんの顔をまともに見れない。
「どうしてここに来たの?」
「え、と…僕、ここに来たばっかりで…村を散歩してたら、たまたま、抜け道みたいな所があって…」
しどろもどろになってしまった。
「…抜け道…ね…」
向日葵ちゃんがぼそっと呟く。何か思い当たる節があるのだろうか。
『デーンデーンデーンデッデッデーンデッデッデーン♪』いきなり、某帝国軍のテーマ曲が流れる。
「…もしもし」
僕はケータイを取り出し耳に当てた。
「紅蓮?もうそろそろ夕食だから、はよぅ帰って来なさいね?」
「…わかった…」
そう言って通話を切る。
「えっと…そろそろ家に帰らなきゃ…」
そう言いかけて顔を上げる。
しかし、そこには誰もいなかった。
「え…?向日葵…ちゃん…?」
きょろきょろと見回しても、風にそよぐひまわりしか見えない。
「変なこともあるんだな…」僕は独り言を言って家に帰ることにした…。