スノードロップ
少し読みにくいかもしれませんが、よろしくお願いします。
ガールズラブなので、苦手な方は読まないことをオススメします。
――――綺麗な、ユリの花が咲いている。
「あっ、すみちゃん、ユリだよー、綺麗だよー」
ああ、言おうと思っていた言葉を先に言われてしまった。
私、林崎由璃は隣を歩く少女を横目で見る。
私のすぐ隣には、夏原菫、菫を挟んだ隣にはさっき私が言おうと思っていた言葉を言った野宮あやめがいる。二人とも、私の大切な友達だ。
今は登校中だ。
あやめは菫の腕を抱き、嬉しそうにユリを指さす。まるで恋人同士のようだ。
「ちょっ、近いよー、あやめ」
菫は顔を桜色に染めて恥ずかしそうにしているが、抵抗する気は見せない。
「恥ずかしがってるすみちゃん可愛いー!」
あやめは菫を離すことなく、ぎゅっと抱きしめる。菫が「きゅうっ」と可愛い声をあげた。
「あうー、やめてよー!」
そして、あやめのホールドから抜け出して、大きく息を吐いた。
「もう、あやめはスキンシップが激しいんだから~」
菫が怒ったように頬を膨らませる。
―――怒った顔も可愛い。
私は小柄な菫を見下ろし、小さく笑みを浮かべた。
――――いつからだっただろう。
私は一人の人間として、夏原菫に恋をした。
菫の笑った顔も、怒った顔も、どんな顔も可愛い。
菫を見ていると、胸がどきどきした。
でも、思いを伝えることはできない。
私は女の子で、菫も女の子だ。
好きって私が言ってしまったら、菫は私から距離を置いてしまうだろう。
でも、私は思いを伝えていただろう。だってこんなに菫のことが大好きだから。
私が菫に告白しない理由は、一人の少女にある。
菫を挟んだ隣を歩く、野宮あやめだ。
あやめは成績優秀で、物静か。とても美人。でもそれは、菫が前にいるときだけ別人のように変わる。まるで小学生のように無邪気になるのだ。
あやめの菫を見る瞳は恋をしているみたいにきらきらと輝いている。
要するにあやめは、菫が好きだ。
そんなの、誰が見ても明瞭だ。
私達三人は小学校の頃に知り合った。三人グループ、仲良くしていた。
なのに、いつの間にかその関係は、変わっていたんだ。
そして菫も、あやめのことを何かと気にかけていた。
菫とあやめは相思相愛なのだろう。まだ告白するのが恥ずかしくて友達以上恋人未満の関係を続けているのか。
「はぁ……」
私は小さくため息を吐く。
――――どうすれば、いいんだろう。
放課後。
チャイムが鳴り、生徒は教室から出ていく。
私は部活も委員会も特に何も無いので、同じく用事が無い菫とあやめと帰っている。
いつものように二人の席まで行き、声をかける。
「帰ろー」
すると二人は、顔を引き攣らせ、同時に口を開いた。
「「きょ、今日は用事があるからっ! 先帰っていいよ!」」
「あ、うん……」
私は二人に手を振り、教室から出た。
既に暗くなり始めている廊下をとぼとぼと歩く。
――――こんなに学校って、広かったっけ?
暫く歩いて、私は足を止めた。
そういえば、今日化学の宿題が出ていたかもしれない。生憎ノートは教室の机の中だ。
今日は運がない。
もう校舎の外だが、しょうがない。
私は早足で教室へ向かう。
二人はまだ教室にいるだろうか。いたら待って、一緒に帰ろう。
教室は玄関から近いこともあり、案外早く着いた。
私は勢いよく教室の扉を開けた。
そして。
抱き合って唇を合わせている二人の少女の姿を、見た。
「あ、ああ……」
口から間抜けな声が出てしまう。
二人の少女は私の姿を見て、驚愕に顔を染める。
「……」
私は走り出した。二人から逃げるように。
――――二人の少女は、菫とあやめだった。
「い、いや。いや……」
目から涙が零れ落ちる。でも私は涙を拭わないまま走る。
ただ、走り回る。
運動神経のない私にしては速いかもしれない。
暫くして、滑って転ぶ。
体の節々が痛い。
私は廊下のど真ん中に座り込んで、泣き続けた。
知っていたはずだ。いつかこうなることぐらい。
なのに、何で。
何で私は泣いているんだろう。
こんなに苦しいなら、気持ちを伝えれば良かったのに。
臆病な自分は、泣くだけで何もできない。
それでも、私は菫が好きだ。
好きで、好きで、たまらないんだ。
「……好き、です……」
私はか細い、枯れた声で呟いた。
言いたかった言葉を。言えなかった言葉を。
その時、私はやっと、笑うことができた。
読んでくださってありがとうございました。