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カリスマキャバ嬢リル

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ここは吉祥寺駅ビルの近くのキャバクラ《天使の舞》



「リルさん御指名三番テーブル沢田さん。エミさんヘルプ宜しくね」



深紅の沈み込むようなペルシャ絨毯の上を、マリンブルーのロングドスを纏った20代半ばの女性が、髪を掬い上げるような仕草をしながら優雅に近づいてくる。



「沢田君、リルってあのこか」


「そうです」



「まるで天使のような容姿だ」



「モデルもやっているそうですよ、田村さん」



「日本人離れしたプロポーションにエキゾチックな顔立ち……それに気品……何故だ……キャバ嬢なんだ……沢田君」



沢田さん久しぶりね」



リルが、けぶるような微笑みで呟く。



「うちの社長」



沢田が紹介した。



「田村です」



「こちらはキャバ嬢ナンバーワンの……」



沢田の紹介を、途中で(さえぎ)り、リルが


「嘘ょ……リルでぇーす」


と、おどけて言った。



「そして……」


沢田が、名前を忘れて口ごもる。



「エミです」


クリッとした目が印象的な20代前半の女性。


「エミちゃんドンペリゴールド宜しくね」


リルが、(りん)とした、よく通る声を発した。



「リルちゃん身長高いねそれにボイン」


低音の響くような声とニヒルな眼差しに、リルがハッとしたような表情で田村を注視する。


「私の顔に何か……」



「私の父の声に似ていたので…」



近くで見るリルの気品のある顔立ちの中に、何処となく幼さが垣間見られ、

田村はドキッとさせられた。


濡れたような唇から視線を上げた田村は、吸い込まれそうな瞳にくぎづけになった。



リルの瞳に、うっすらと涙が滲んでいる。



「どうしたの……大丈夫」


沢田がリルを心配そうに覗きこんだ。


「田村さんを見ていたら、唐突に亡くなった両親の事を思い出したので……ごめんなさい」


「確か、リルちゃんが小学生の時に車事故……」


沢田が、横から口を挟んだ。


「あたしだけが奇跡的に助かったの……」


沢田から田村に視線を移して、そう言ってから少し間を置いて話しを紡ぐ。


「最初、田村さんの姿を見かけ、ハットし田村と紹介されて、

心臓がドキッと……私も田村なので……そして声……」


「あのぅ……ハグしても……」


消え入りそうな声でリルが呟く。


「私でよければ……」


「ちょっとエミちゃん

雪の女王どうしちゃったの?誰にもなびかないクールなリルさんが……」


席に戻ろうとしていたエミに待機席に戻ってきたユミが耳元で囁いた。


エミは半信半疑で、リルのテーブル席を凝視して、固まってしまった。

(嘘でしょう……先日の嵐のメンバーや大物政治家に対しても、

自己のスタンスを崩さなかったリルさんが……)



『パパ……いい匂い……あったかい』



「ありがとうございます……もう大丈夫です」


ゆっくりと、田村から身体を離したリルが、香るような微笑を放つ。



「ごめんなさい!……ビックリなさったでしょう……父のイメージは34歳のままなんですよ……」


「私でよければ、いつでも……」


(…複雑な心境だな)



「田村さんは夢のコントロールが本当に出来るんですか?

以前、沢田さんから聞いたので……」



「ええ、出来ますよ

ネットで友人も『自己メンテナンス』の中で明晰夢(夢のコントロール)を書いているので閲覧してみては?夢に興味が……」



「事故で亡くなった両親と健ちゃん(同級生)と夢で逢いたいのに夢に現れない……」



「夢でなくても逢える方法がありますよ」


「本当に?」


「試して見ますか?」


「はぃ」


リルがコクリと頷きながら返答する。



田村は、懐中時計を懐から取り出し、リルの顔から20センチ離れた所、目の高さにぶら下げ、

ゆっくりと左右に揺らした。


「はい、懐中時計をじっと見つめて……揺れている時計を見ていると、だんだん左右のまぶたが重くなってくる……さあ……時計の揺れがだんだん大きくなる……もうあなたは目を開けられない……吸い込まれるようにあなたは深い眠りにドンドン落ちていく」



事故の後遺症で記憶喪失の舞だったが、時々夢の中に、

小学生の頃の自分と遊んでいる男の子の夢が現れる。



その夢は、ベールに包まれたように、背景も輪郭がぼやけている。



顔はボヤケて判然としないが、

『健ちゃん、泣かないの』

夢の中のあたしが、叫んでいる。



同級生に、いじめられて泣いている男の子を、叱りながら、

いじめている男の子に立ち向かっている自分がいた。

閲覧ありがとうございます。

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