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恋は幻想曲に乗せて

恋は幻想曲に乗せて

『トーントーン』



舞は背中を軽くタッチされるような感触で目覚めた。




「お客様……大丈夫ですか?

うなされていたみたいだったので」




女性店員が、覗き込むような姿勢で舞に声をかけた。




舞は急激な覚醒で一瞬キョトンとした表情を垣間見せていたが、ハッと我にかえった。




「すみません」



舞は寝ぼけ眼で店員に言った。



そして大きく背伸びをして、顔面を両手でマッサージする。




眠気が多少緩和されたような表情を浮かべながら、舞は腕時計に視線を走らせる。



15時を表示していた。




昼過ぎの平日のファミレスは、客もまばらで閑散としていた。



−−……−−



舞は11歳の時に両親を事故で失った。




独りぼっちになった舞を叔父さんが引き取って育ててくれた。



叔母さんが病気で亡くなってから半年経過した頃、叔父さんが


「舞ちゃんは、可愛いいから痴漢に襲われる可能性があるよ。


明日から護身術を教えてあげよう」



と提案してきた。



舞は、


「一晩考えさしてください」


と返事をした。



舞は叔父さんが部屋を出ていくと、飛び上がって狂喜して喜んだ。




実は舞は中国拳法にハマっていて書物も唐や明の時代の武侠小説ばかりだった。




叔父さんは拳法初段の腕前で、日曜日ごとに中野の道場に通っている。





翌日、舞は習うのなら叔父さんと一緒に道場へ通いたいと話した。



「そうだな。舞と一緒に行こうか」



−−……−−



舞は素質があったのか2年で二段に昇段。



「ちょっと舞!

あんた健二を誘惑したでしょう。

会う度にあんたの事を聞くんだよ」




叔父さんの一人娘の絵里香が、半泣きになりながら枕を舞に投げる。




「私、男の子に興味ないから」



舞は苦笑いしながら答えていたが、毎度の事に嫌気がさして、所持金3000円で叔父の家を飛び出した。




しかし、行く当てはなかった。



所持金は、すぐに底をついた。



残飯を漁っていた時に、ホストを引き連れたある女性から紙袋を貰った。



その中に、とんでもないゴールドボックスが紛れ込んでいた。



そのボックスが舞を蘇生させる事になるとは、その時は知る由も無かった。



−−……−−



舞は、買い物袋の中を改めた。



そして、中からゴールドの輝きを放つボックスを取り出した。




重厚な感じで、ずっしりと重そうである。




舞はメモ用紙になにやら番号を記入していた。



ボックスの横に暗証番号入力装置があるらしい。



舞はメモ用紙に書き込んだ暗証番号を打ち込んだ。




暫くすると、ブーンという振動がした。




振動が始まって30秒もしないうちに、ボックスが上下左右に少し動きだした。




舞が一呼吸もしない内にゴールドボックスが突然大きく動き出した。




まるでボックスが超合金のロボットに変身するのではと思う程の動きであった。




ゴールドボックスは縦横に動きながら、高さ60センチの三段ボックスに変化した。




そのボックスの動きを目で追っていた隣の小学生が、ビックリしてスプーンを床に落とした。



スプーンの音にビックリした母親が、子供の視線の方向を見た。




母親は、信じられない物でも見たような顔をして口をポカーンと開けていた。



舞は母親と視線が合ったので、軽く会釈をした。




母親が慌てて視線を()らした。




舞も車がロボットに変身する映画を、さっき見たばかりだから不思議な感覚に襲われた。




ノートパソコンを3台積み重ねたような仕様で上蓋の裏側が超高解像度の液晶画面。




初級・中級・上級のメイク術講座が網羅(もうら)されていた。




(何故、彼女は私にこんな代物をプレゼントしたのだろうか?


……私にとっては

゛豚に真珠"

みたいな物よ)




舞は小さな溜め息を漏らした。



舞は家出については後悔していなかった。




理不尽な嫌がらせを我慢するぐらいなら、

このまま野垂れ死にしてもよいとさえ思った。



お金も底をつきフラフラ歩いていた時に突然、工藤さんの顔がまぶたに浮んだ。





道場時代に、よく懇切丁寧に指導してくれた親切な人であった。



3か月前、中野の拳法道場を工藤さんが辞める時、そっとメモ用紙を舞に渡してくれた。




困った事や悩みの相談いつでも乗るよ、という主旨の内容だった。




友達のいない舞にとって20歳以上年齢の離れた工藤さんは父親みたいな存在であった。




腹を空かして、残飯を漁っている舞が会いに行ける訳が無かった。




舞が涙を流しながら飯を漁っていた時、


「……このザマときたら……」



舞の耳目(じもく)に飛びこんできた言葉があった。




舞はふと視線を上げた。




ホストらしき二人に、買い物袋を両手一杯に持たせた絶世の美女と、見間違う程の女性が眼前にいた。




その女性が自分の買い物袋にお金を入れていた。




そして買い物袋をホストに渡して、耳元で囁いている。




買い物袋を提げたホストが舞に近づいて来た。



「プレゼントだそうです」




と言って買物袋を舞に差し出した。




残飯を漁っている舞は、それを拒めば、ますます惨めになると思い受け取った。




「この借りは、必ず利息を付けて返済します」


舞の精一杯の虚勢であった。

彼女の後ろ姿を、携帯カメラで撮りながら、こっそり後をつけた。




近くの超高級マンションに消えるのを、見届けてから近くの公園で買い物袋を開けた。




中には、無造作にほうり込まれた一万札10枚と、斬新なデザインのワンピースが入っていた。



それと違和感のあるゴールドのボックス。




ボックスの右側面のボタンを、何気なく押した。



『グィーン』



舞は突然動き出したので、ビックリして1メートル飛び下がった。




舞は中を、おっかなビックリ覗き驚愕した。




上段には100以上の染料、中段には、極細筆や極太筆が整然と並んでいる。




下段は小さな瓶液と(さら)が所狭しと置かれていた。




(水彩画と油絵をミックスした画材用品は、あたしには必要ないわ。


近くの画材店で調べて貰おう)




公園の近くに、画材店があったので、舞はゴールドボックスを持ち込んだ。




画材店を覗くと一階にはお客が居なかった。




店主が手持ち無沙汰な様子で雑誌のページを巡っている。




舞は暫く躊躇(ちゅうちょ)していたが、思いきって声を出した。



「すみません。

実はちょっと調べて貰いたい物があるんですが、宜しいでしょうか?」




舞が声をかけると店主が、雑誌から目を上げて舞の方を見た。



50年配の目が柔和な気の良さそうな店主が、


「どんな物ですかな?




舞が声をかけると店主が、雑誌から目を上げて舞の方を見た。



50年配の目が柔和な気の良さそうな店主が、


「どんな物ですかな?」



と呟いた。




舞は袋から取り出したゴールドのボックスを店主の前に置いた。




店主がゴールドボックスを、両手でそっと触った。




店主の両手が、微かに震えている。




舞は店主の狼狽(ろうばい)ぶりに、何かとんでもない物を持ち込んだのかと恐れを無した。



店主は舞の変化に、きずかないそぶりを装いながら、


「いゃあ、失礼。雑誌をみながらウトウトしていたもんだから……」



そう言いながら、店主は唾をゴクリと飲み込んだ。




「こ、これがどういう代物か知りたいと言う質問ですかな?」



店主が取って付けたような微笑で舞に尋ねた。



「はい」




舞は、コクリと頷く。


「ところで、これは何処で手に入れましたかな?」


店主が笑みを浮かべながら呟いた。




「知人からプレゼントされた物です」



「そうですか、私は本物は見た事が無かった。


以前、写真で拝見した事がありますが値段的には100万ぐらいですね。





世界に、いくつもない代物で、ネットオークションに出品すると億の値がつくでしょう。



悪い事は言わないから、その知人に返却した方が賢明ですね。

このハリウッドメークセットは、誰でも手にする事が出来る代物ではないので……」




店主は記念に写真を撮らしてくれと、10分ぐらい撮影していた。




奥の方で電話の呼び出し音が聞こえた。



「ちょっと失礼」



店主が奥に引っ込んでいる間に舞は素早くゴールドボックスを買い物袋に、しまい込んで急ぎ足で店を後にした。




舞は店主から誰でも手にする事が出来ない代物だと聞いてから、手放なそうという気が消失した。




最初は返却しようと、このゴールドボックスの価値を調べようと思っていた。



100万の価値の代物だけなら返却していただろう。



しかし誰でも手にできる代物では無いと聞いてから、天の贈り物だと自分に何度も言い聞かせた。




舞は何度も暗示をかけていたら、不思議に違和感が無くなっていった。





閲覧ありがとうございます。

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