05
諒が女性の強さを実感していると、突然バンッと乱暴に宿の入り口の扉が開けられた。
そして、どやどやと入ってきたのは柄が悪い男十数人。ガチャガチャという金属音が宿に響く。
マナーのなっていないこの男たちは、笑っているのだが、全員が全員下卑た笑い方だ。
そのいかにも悪そうな男たちの集団の先頭に立ったリーダーらしき男が、たまたま近くにあった木の椅子を蹴飛ばす。
椅子は、派手な音を立てて倒れた。
「何するんだい!? あんたたちは一体…」
「ごちゃごちゃ抜かすんじゃねぇっ!」
椅子が蹴倒されたのを見て、女将が目を見開き叫ぶ。
それを遮るようにして、リーダー(仮)が声をあげた。
客が楽しく歓談しながら食事中だった食堂が、男たちの乱入で水を打ったようにしんと静まりかえった。一斉に、リーダー男に宿の客の視線が集まる。
そして――リーダー男は剣を抜いた。
それを合図にか、後ろに集まっている男集団も抜剣する。
剣の刃の、鈍い銀色がギラリと輝いた。
唖然とする女将と客たちに、リーダー男が大声で宣巻いた。
「てめぇら全員、死にたくなけりゃ金を出せ!」
つまりは、脅しているのである。この柄が悪い男集団は盗賊団だったらしい。
諒は凍りついた人々の中で、参りましたね、と一人だけ緊張感なくぼやいた。次いで徐に右手を挙げる。
それに気付いたリーダー男が、
「何してんだてめぇっ!」
と諒を睥睨した。他数人の男も、諒を睨みつける。
諒は弁解…とも言えない弁解をした。
「いや…申し訳ないんですが、私今のところ金銭を持ってないものですから」
諒はそれを男集団に伝えようと挙手したわけだ。
余りに微妙な理由に、一瞬空気が固まる。
一同が諒に、「この状況下で何言ってるんだこいつ」という目を向けた。
リーダー男もぽかんとしていたが、はっと
気を取り直して怒鳴った。
「嘘つくんじゃねぇ!金がないなら宿に泊まれるわけねぇだろ!」
その言葉に、男集団も追従してがなり立てる。
「そうだそうだ!」
「お頭の言う通りだ!」
「ふざけんな!」
諒はのほほんと、別に嘘は言ってないんですが、と呟いた。
「私は善意で泊めてもらっているだけなんですが…。そんなに哀れな文無しからないお金を搾り取ろうとなさらなくても」
「さっきからぶつぶつうるせぇんだよ!死にてぇのかお前は!」
それを耳聡く聞きつけたリーダー男が諒に凄む。諒は困ったように笑った。
「そういうわけではないですよ」
普通の人間なら脅しに怯えて「命だけは!」となるところだが、定番通りの反応をせず、どこまでもマイペースな諒に苛ついたリーダー男の眉間にぎっと皺が寄った。大方、舐められているとでも思ったのだろう。剣を握り直し、宿の床にペッと唾を吐き捨てて、ラッパ並に大きく宣告する。
「………。もういいわ!てめぇは殺すっ!」
「いや、ご提案はありがたいんですが…遠慮します」
ご提案も何もない強制だが、諒は至極平然と拒否する。こういう場合、拒否権はないという事実は空気を読まずにスルーしていた。
そうは言っても、リーダー男はもう諒の話など聞いていない。「金を出さないとこうなる」という見せしめの意味もあり、さっさと諒を殺して金の話を進めようとしているので、剣を諒に向けて突き出した。
「あぁっ!お客さん!!」
女将の悲鳴が食堂に響き渡った。