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第五話下:再会、お礼、タクト視点。

 タクト視点


「『遠距離移転(テレポート)』【始まりの町中央広場】オープン」


 目の前に仄かに水色に輝く魔方陣が展開される。僕はそれを潜り抜けて始まりの町に戻った。


「さて、あの子はまだ居るかな~?」


 確か、緑色の髪で僕と同じ髪型の少女だったと記憶している。それを手がかりに探すが、中央広場にはもう既に居ないようである。


「居ないか、そうだよな、もうあれから20分は経ってるもんな」


 少女が広場に居ないことを確認した僕は、町に戻ってきたもう1つの目的を果たすためNPCショップが建ち並ぶ、通称「職人街」へと向かった


 今回の目的は、足場(・・)を買うことである。先ほどの戦闘で忍者刀を足場として使ったが、やはり武器は足場に使うには数が足りない。なので何か足場になりそうなもので、大量に買えるモノを探しに来たのだ。


 まずは、【突撃兎(チャージラビット)】と【巨角野牛(ビッグホーンバイソン)】の素材を売って資金を稼ぐことにする。

 

 まず、【突撃兎】だが、コイツのドロップは「突撃兎の皮」のみである。流石はお試し魔物(モンスター)、5枚の皮は60(ゴールド)で売れた。安すぎやしないだろうか?いや、兎だしな、こんなものか。


 次に【巨角野牛】のドロップだ。これは、「巨角野牛の革」「巨角野牛の角」「巨角野牛の肉」のどれかを、1頭につき2つ~3つ落す。今回倒した5頭のドロップは、「巨角野牛の革」×6「巨角野牛の角」×4「巨角野牛の肉」×2の合計12個である。

 肉は「料理」スキルの練習用にとっておくことにして、残りの革と角を売る。革は1つ150G、角は1つ400Gと、合計2500Gで売れた。結構いい値段だと思う。やはりまだソロで立ち向かうような相手ではなかったようだ。倒せたけどな!


 資金を確保することは出来たので、本格的に足場に使えそうなアイテムを探す。


「うーん、なかなか良いのが無いな~」


 この足場だが、なかなかベストな条件に当てはまるモノがないのである。まず大きさだが、あまり大きいと、《収納空間》にしまうときや、《固定(ロック)》を掛けるときに無駄なMPを消費してしまう。かといって小さいと、足場として役に立たない。次に数の問題だが、使用することで効果を発揮するような、所謂「道具」の類だと所持数に制限がかかってしまうため、多くを持ち歩くことは出来ない。そのため、自然と素材系のアイテムになるのだが、この町で売っている素材は、皮や薬草、後は未調理の食材系アイテムなど足場には向かない柔らかく脆いものがほとんどなのだ。金属のインゴットも売っていたが小さすぎた。


「ん?ここは…」


 そんな時に見つけたのは「ドリー木材店」という看板が掲げられた、あまり目立たない木造の簡素な店だった。


「木材か、うん、使えるかもしれない」


 早速僕は、その店の扉をくぐった。


 カラランと入店を知らせるためのものと思われるベルが鳴る。明りが無いため少し暗い店内は、素朴ですっきりした印象を受ける。店になっている部分だけで12畳ほどの広さがあって、奥にはまだ部屋があるようだ。左右の壁際にある棚には、大小様々な大きさや形の木材が置いてある。


「いらっしゃい!この店の店主をやってるドリーだよ、よろしくね。今回は何の用だい?」


 毎度思うがこの世界のAIはすごいと思う。何でも、ある程度の性格や行動パターンなどが個別に設定してあるだけでなく、この世界での話題でなら会話すら可能なのだそうだ。なので、本当にゲームの中だけの人と会話が出来るわけである。


「ドリーさんですね、初めましてタクトです、職業は冒険者になるのかな?」


「おや、冒険者なのかい?珍しいお客さんが来たもんだね。木工で弓でも作るのかい?」


「いえ、ちょっと足場に使おうと思いまして」


「足場?建物か櫓でも建てるのかい?まぁ、あんまり詮索はしないでおこうかね」


「助かります。ここはサイズを指定して作ってもらうことは出来ますか?」


「少し高くつくけどできるよ、あんまり極端なのはできないけどね。」


 あまりにも小さいモノや大きいモノはできないようだ。


「それじゃあまず、あれの横幅を大きくしたものを20本ほど頂きたいのですが」


 そう言って僕が指さしたのは、店に置いてある中で二番目に大きな角材だ。


 長さは3mほどで、切り口は一辺が15cmほどの正方形になっている。


「あれだと幅によっては難しいね、どの位広くすれば良いんだい?」


「あれの倍くらいあれば充分です」


「それなら何とかなるね、でも数が数だから結構な値段になるけど大丈夫かい?」


「いくらほどになりますかね?」


「そうだね、使う木の量はあれの2倍だから、値段もあれの2倍にそれに少し上乗せする感じだね」


 通常価格は80Gだ。その2倍だから160Gそれを20本3200Gそれにまた少々上乗せされるらしい。現在の所持金は12560Gなので、割と余裕で払うことが出来そうである。


「それから―――」


 その後、40cm四方の厚さ5cmほどの板を50枚購入し、合計3700Gを支払い木材を購入した。注文したその場ですぐに受け取れるあたりはゲームだなと思う。


「さて、目的は果たしたから、【野獣の森(ビーストフォレスト)】に向いますかね。」


 独り言が増えたな~と思いつつ、入店時と同じベルの音と、ドリーさんの「また来てね~」という言葉を背中に受けながら、店を出る。


「あ!」


 扉を開けると、目に飛び込んできた光景に中を、見覚えのある緑色の髪が横切って行った。良く見てみると、身長は僕より少し小さいくらいの、僕と同じ髪型の少女だった。間違い無く、先ほどの少女である。


「居た居た。良かったー、見つかって!」


 そう声をかけながら、こちらに気付いてもらえるように手を振りながら、後ろ手に扉を閉める。


 少女はこちらを探すように辺りを見回していたが、こちらを見つけてくれたようで、僕の方を向いて立ち止ってくれる。


「無事だったんだねー、後先考えないで取り敢えず広場に飛ばしちゃったから心配してたんだよ」


 少女の元へ歩み寄り、そう声をかける。すると少女は、何か言いたげな目でこちらを見てきた。そこでようやく自己紹介がまだだったことを思い出す。


「僕は『タクト』って言うんだ。主武器(メインウェポン)は銃だよ」


「私は『エミリー』と言います。主武器は弩で、元βテスターです」


 少女改めエミリーは、明るめの緑色の髪に若草色の瞳をもった、美少女と言って差し支えない子だった。丁寧な言葉遣いも相まって清楚で大人しそうな印象を受ける。年はやはり僕より少し下だと思う。


「先程は助けていただいてありがとうございました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」


「良いよ良いよ、好きでやったことだし。それにスキルのレベルもかなり上がったしね」


 迷惑だなんてとんでもない、あれのおかげで色々試すことが出来たのに。


「え、まさか戦ったんですか?【巨角野牛】と!?」


 そんなに驚くことだろうか?確かにそれなりに強い魔物ではあるが、倒せない魔物じゃないと思うのだが…。相性の問題かな?遠距離だと弱点狙いやすいし。


 そう伝えたところ、大変微妙な顔をされた。何故だ。


「何か助けて頂いたお礼をしたいのですが、何がよろしいでしょうか?」


 あれ?お礼目当てで助けたと思われてるのかな?


「え?別に良いよ、そんなことが目当てで助けたんじゃないんだから」


「駄目です」


「え?即答?」


「私の気が済みません、何かさせてください」


 どうやら、お礼目当てで助けたと思われてるわけではなさそうだけど…多分この子は何かしらお礼を受け取らないと納得してくれないだろう。


「お礼って言ってもな~」


 つい先ほど欲しかったものは買ってしまったし、お金も充分ある。アイテムも、ゲーム開始時に貰った回復薬などに全く手を付けていないため、しばらく必要ない。


「あ!そうだ!」


 そこでふと先ほどの自己紹介を思い出す。確か彼女はβテスターだったと言っていた。それならば情報を貰おう。妹に訊こうと思っていた事や、【野獣の森】について何か知っているかもしれない。


「キミは「エミリーです」…」


 即座に訂正してきた彼女改め、エミリーは、何処か逆らっては行けない雰囲気を醸し出していた。


「エミリーはβテスターなんだろ?ちょっと質問に答えてくれない?」


 そう問いかけると


「そんなことでよろしいのですか?お金とかアイテムでも良いのですよ?」


 と言われた。うーん、こういうゲームでは情報の方がよっぽども貴重だと思うんだが…


「お金は【巨角野牛】のお陰でたくさんあるし、まだ欲しいアイテムはないからね。それよりは情報の方が嬉しいよ。」


「そうですか。では、タクトさんはどんなことが知りたいのでしょうか?」


「そうだね、じゃあまずは―――」


 僕がエミリーに訊いたのは、アビリティについて、MPゲージについて、【野獣の森】についての3つである。「キミのことを知りたい」なんて言うジョークを言おうかとも思ったが止めておいた。


 まずアビリティについてだが、これはスキルレベルが10になった時に覚えるらしい。そしてその後は、レベルが5つ上がるごとに少しずつ増えたり成長したりしていくそうだ。


 覚えるアビリティや、成長の仕方は、今までの戦い方やそのスキルをどういった使い方をしてきたかによって一人ひとり違うのだとか。


 何故一人ひとり違うのかと聞いたところ


「魔法を含め、武器も個人で工夫を凝らして作る事が出来るので、このゲームでの戦い方というのは十人十色、千差万別なのです。なので、アビリティを固定してしまうと、機能しないアビリティなどが出てきてしまうので、この形になったのではと予想されています。」


 らしい。


 つまり、ゲームを自由にしすぎたせいで、固定のものは逆に邪魔になってしまうようだ。そうは言っても、ある程度のパターン化は為されているそうだ。


 次にMPゲージについて訊いてみた。


 MPゲージが出現する条件は「魔法スキルを覚えていること」と、「一度MPを0にすること」だそうだ。


 先ほどの戦闘でMPを使い切ったため表示されるようになったらしい。このゲームは一体どこまでプレイヤーにやらせるのだろうか。MPまで自分で調べさせるとは。


 最後に【野獣の森】についてだが、罠などは一切ない単純なフィールドだそうだ。出現する敵は3種類、【隠密蛇(ハイドスネーク)】【部隊狼(パーティーウルフ)】【疾走猪(ダッシュボア)】という名前だそうだ。


 【隠密蛇(ハイドスネーク)】は、「隠密」スキルの中にあるアーツ『潜伏(ハイド)』を使って、木の上や草藪に隠れて、プレイヤーを待ち伏せする蛇型のモンスターだ。

 この魔物の戦闘力は【突撃兎(チャージラビット)】以下で、簡単に倒せるそうだが、不意打ちの攻撃を受けると大ダメージを受ける上に麻痺や毒の状態異常に陥ってしまう事があるそうなので、注意が必要だろう。だが、エミリー曰く


「索敵能力があれば簡単に見つけられるので、遠距離武器であればそんなに脅威ではありませんよ?」


 だそうだ。「空間魔法」で索敵系の魔法を作った方が良いだろう。


 次に【部隊狼(パーティーウルフ)】だが、これは常に3~6頭で行動する狼型の魔物で、連携して攻撃してくる厄介な敵らしい。だが、アーツを使ったり状態異常にしてきたりはしないらしいので、複数で相手をすれば特に苦戦することなく倒せるそうだ。


 最後に【疾走猪(ダッシュボア)】という猪型の魔物で、「疾走」スキルの中の『ダッシュ』を使い、森の木々をなぎ倒しながら突進してくるらしい。攻撃力やHPも高いため強敵だが、攻撃が単調なので、慎重に戦えばどうということはない――――とはエミリーの談である。


 これで知りたかった情報はすべて聞くことが出来た。


「うん、これで全部だよ。ありがとうエミリー、助かったよ」


 エミリーにお礼を伝えると、まだ何処か納得のいかないという顔をしていた。


「いえ、助けて頂いたのですからお礼をするのは当然のことです。でも本当にこんなことでよろしかったんですか?」


 こんなことと言うが、とても貴重な内容だったように思う。エリアの情報とか、MPゲージのこととかは攻略サイトには載っていなかった内容だ。


「うーん、僕は充分なんだけど、納得いかない?」


「いきません」


「うーん、じゃあどうしようかな~…」


 最初に見たときにはおとなしそうな印象を受けたが、なかなか強かというか、芯の強い娘のようである。

 こういう娘には逆らっても無駄だろう。別に損するわけでもないし、せっかくお礼をしたいと言ってくれてるのだから、ここで無意味に拒むのは失礼である。


 しかし問題は、頼むことが見つからないことだ。


「あ、そうだ!」


 いっそのことしばらく手助けしてもらうというのはどうだろう?これから未知のフィールドに出るわけなので、βテスターであるエミリーが一緒に居るというのはかなり心強い。

 だが、問題はエミリーが僕と同じ遠距離系のプレイヤーであることだろう。不都合なわけではないが、もしかしたらエミリーの出番がない可能性がある。僕の戦い方はいかに早く敵を殲滅するかが重要になってくるためである。そうしないと、接近されてしまうため、大量の銃を使った物量作戦が使えないためだ。


 とはいえ、エミリーが近接戦闘が出来るのなら、普通に銃を手に持って戦っても戦えるだろう。

 ソロだと近づかれる前に敵を倒さないといけないので、アーツや魔法を乱用することになるが、前衛が居れば、ある程度余裕が出来る。


「エミリーは近接戦闘できる?」


「え?ええ、まあできなくはないですが…」


 エミリーに質問したところ、何故そんな事を聞かれるのか分からないといった様子で答えてくれた。


「それじゃあ、ちょっとこの後パーティー組んでフィールド行かない?僕これから【野獣の森(ビースト・フォレスト)】に行こうと思ってるんだ」


「え?あの、それはむしろ足手まといでは?」


 近接戦闘が出来るようだし何の問題もない。僕は近接戦闘は苦手だし、前衛が居てくれるだけでずいぶん楽だ。


「そんなことないよ。僕は近接戦闘苦手だし、一人より二人の方が断然楽だからね」


 そう伝えると、エミリーは一緒に【野獣の森】に行くことを了承してくれた。

 御読了ありがとうございます。


 同じ話を別々の視点で描くということに挑戦してみましたが、なかなか難しかったです。こうして書くとタクトって個性が弱いですね…。 なんとかせねば


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