第三話:アーツ、魔物、戦闘スタイル。
「っしゃー!終わったー!」
現実時間で三時間がたったころ、僕は訓練場を出た。あれから僕は、必要な魔法や銃のアーツを作成、練習し、理想の形に近付けつつ、「忍者刀」のスキルを作ったり「就脚術」や「軽業」のレベル上げなんかを行っていた。
結果として、僕のスキルレベルはこうなっている
「銃」Lv5「忍者刀」Lv3「空間魔法」Lv6「水魔法」Lv1「呪い」Lv1
「料理」Lv1「軽業」Lv3「蹴脚術」Lv4「鑑定」Lv1「武器アーツ作成」Lv7
スキルのレベルは順調とはいえないかもしれないが、幾つかは上げることが出来た。
だが、ここで1つ問題が発生した。「アビリティ」が覚えられなかったのである。これについては経験者に話を聞こうと思い、夕飯のときに瑠花に聞くことにした。
さて、そろそろ、僕が考えていた戦闘スタイルについて明かそうと思う。誰にだよ。
僕がずっと思い描いていた、銃を使った戦闘スタイルというのは、一度に大量の銃を操るというものである。空間魔法を使えば、空中に銃を呼び出したり出来るかもしれないと思い、閃いたものである。そして、事実それは成功した。
とりあえずやってみたところ、魔方陣から生えるように姿を現した銃身は、その場で静止した。どうやらこれは、『収納空間』の能力らしく、物理的な干渉が無い限り、出現した座標から動かないようだ。
次に、その銃を遠隔操作するためのアーツを作成しなければいけない。だが、これはただ念じるだけで発砲するなどということは出来なかった。どうやら、何かが足りないようで、試行錯誤した結果、何も持たずに、または銃を持って引き金を引くアクションをしたら全ての銃を発砲することが出来た。
が、ここで、二つの問題が発生した。まず一つ目はすべての銃が一度に発砲されたのである。一回撃つと、次を撃てるようになるまで少々時間が要る銃にとって、これはあまりよろしくない。二つ目は、発砲の反動で全ての銃が地に落ちてしまったことである。
これらの問題の対策を講じなければいけなくなったが、一つ目については簡単だった。発砲するときと同じく、ボイスコマンドに頼る事にしたのである。撃ちたい銃の名前を唱えたあと「セット」のキーワードを唱え発砲すると、選択した銃だけを発砲することが出来た。
二つ目の対策は、新しい魔法を作る事にした。『固定』という魔法で『収納空間』から出てきた、宙に浮いている状態の銃を参考に、銃を周りの空間に固定したのである。しかし、これをだと、銃を動かす事ができず、逐一場所を移すために銃の出し入れをしないとならない。これからの課題である。
そして、遠隔操作の銃でもアーツを使用することが出来たので、この戦術は多少の問題はあるが充分に機能すると思う。
また、空間魔法の『短距離移転』は、どうやら、プレイヤー以外のモノも飛ばすことが出来るらしく、これを使って相手の正面に立ちながら相手を後方から攻撃するということも出来そうだ。しかもこの『短距離移転』は物に関わらず何か一つのものを移転させると魔方陣が消えてなくなってしまうので、この戦術が気付かれにくいという利点があったのは嬉しい誤算である。
「さて、この戦い方で、動かない案山子相手に攻撃を当てることはできたから、次は動く的だな」
ここ、【始まりの町】は、ワールドマップの最南端に存在している。東、南、西方向に、約一㎞ほど進むと、プレイヤーが進入不能な巨大な海が広がっているらしい。また、北には、広大な森林が広がっている。
これらの森や海の間に在るのは、だだっ広い草原のみである。この草原が初心者用のお試しエリアとなっていて、名を
【第0エリア 旅立ちの草原】
という。
そして今、僕はその、お試しエリアに到着した。
「さて、ここにはどんな魔物が居るんだったかな?」
確か、ここに出現するのは、【突撃兎】と、【巨角野牛】という魔物らしい。
これらはそれぞれ、突進してくる兎と、大きな角を持った牛だ。うん、分かり易い。やはり初心者エリアなので、あまり癖のある魔物は居ないようである。
「さて、まずは普通に戦って見るかね」
周囲を見渡すと、8mほど向こうに体長60cmほどの巨大な兎が居た。あれが【突撃兎】だろう。「鑑定」を使ってみると、弱点と、HPゲージが表示された。
この弱点に攻撃すると、通常の2倍の威力が出るクリティカルヒットが発生するらしいので、狙えるなら狙うと良いらしい。
次に、HPゲージだが、これは、初見の場合は表示されないようになっている。一度倒すか、鑑定系のスキルを使うと見えるようになるのだ。しかし、鑑定系のスキルを使った場合、鑑定スキルの対象になった個体しか、ゲージが表示されない。どうやら、一度倒すと同種の魔物全てに表示されるらしい。
「とりあえず、通常攻撃で行こうかな」
腰のホルスターからハンドガンを引き抜き、右手に構える。念のため【突撃兎】の背後に回り、頭に照準を合わせて引き金を引いた。
パン!という少々軽い銃声と共に銃弾が打ち出され、狙いとは少し逸れて、兎の背中に着弾した。黄色いダメージエフェクトが閃くと共に、HPゲージが1/3ほど減少した。
「あ、外した」
今の攻撃で【突撃兎】はこちらに気付いたらしく、こちらに向かってものすごい勢いで突撃してきた。60㎝の巨体が突撃してくるというのは、かなり迫力があった。
「うわ、怖っ!?『ステップ』!」
「軽業」アーツ『ステップ』を使い、横っ飛びに回避する。【突撃兎】は先程まで僕の立っていた場所を走り抜け、数m先で停止した。
「よし!距離が空いた、チャンス!」
僕はすかさず銃を構え、【突撃兎】の頭に照準を合わせると、引き金を引いた。今回は上手く頭に当たったようだ。さっきより派手な、赤いダメージエフェクトが輝き、HPゲージが空になる。【突撃兎】は青いポリゴン片になって爆散した。
「やった!上手くいった!」
今の赤い派手なエフェクトが、クリティカルヒットが起こった合図なのだろう。
「よし、次はアーツ使ってみようかな」
少し歩くと再び【突撃兎】を発見した。
「お、居た居た」
まだ距離があるので、こちらには気付いていないらしい。
「さて、アーツの試射と行きますか!」
現在、僕が作った銃のアーツは、『遠隔操作』『パワーショット』『ホーミングショット』『二連射』『クイックリロード』『精密射撃』の6つである。
『遠隔操作』は先程述べた通り、銃を手に持たずに、照準、発砲するアーツである。
『パワーショット』は通常攻撃よりも、かなり強力な攻撃ができる単発のアーツである。強力ではあるのだが、クールタイムが一分と長く、乱用はできない。また、通常攻撃とくらべてどの程度の威力なのかもわからないので、検証が必要である。
『ホーミングショット』は、その名の通り銃弾に追尾機能を持たせるアーツである。このアーツを使って散弾銃で案山子を撃ったところ、案山子が着ていた鉄鎧が一回でボロボロになった。
『二連射』は、ほぼ同時に二発の銃弾を打ち出すアーツである。銃は、一回撃つと、次の弾を撃つまで少々時間がかかる仕様になっているため、平凡だが有用なアーツだと思う。二発以上の連射アーツはスキルのレベルが足りないのか、作ることができなかった。
次に『クイックリロード』であるが、銃には当たり前だが「弾切れ」が起こる。弾切れを起こすと、一分間その銃の使用が不可能になるのだ。その状態の銃を、MPと引き換えに無理矢理回復させるのである。しかしこれは、一回で僕のMPの2割を持っていくので、空間魔法を乱用しながら戦う予定の僕にとって、使い所が難しいアーツだ。
最後に、『精密射撃』である。これは一定時間、自分の攻撃の命中率を上昇させる、サポート系アーツだ。これを使いながら「短機関銃」を使うと、かなりえげつないことになる。
これらのアーツは銃の種類を変えたりしながら、案山子相手に何度か試している。『遠隔操作』『クイックリロード』『精密射撃』は、全ての銃で使用できたが、『パワーショット』『ホーミングショット』『二連射』は短機関銃で使用することができなかった。やはりこれは、銃の特性の問題だろう。使用できなかった3つのアーツは、基本的に単発で撃つことが前提となっているアーツなので、連射が可能な機関銃で使用できなかったのだと考えられる。
とはいっても、今のところ機関銃のアーツは必要ないと思う。機関銃はそれなりに長い間連射ができるので、アーツについてはほかの銃で補った方が効率が良いのである。
「まずは、『パワーショット』から試すか」
まずは『パワーショット』の試射からである。
「クリティカルが出ると分からないから背中だな」
再び【突撃兎】の背後に回り背中に照準を合わせる。
アーツは名前を唱えることで発動する。ので、
「『パワーショット』!!」
元気よくノリノリで叫んだ。
すると、手に持っているハンドガンが、赤いライトエフェクトを纏う。こういうのってテンション上がるよね!
そんなことを考えながら、照準を外さないように引き金を引く。バンッ!という先程の通常攻撃より大きな音と共に、赤い光の尾を引きながら銃弾が飛び出した。飛び出した弾丸はの背中に命中し、黄色いダメージエフェクトが閃くと共にHPゲージのバーがガリガリと減っていき、レッドゾーンに突入して、空になる直前になって止まった。
どうやら、『パワーショット』の威力は通常攻撃の3倍程度らしい
「わお、流石!クールタイム一分は伊達じゃな……やばっ!?」
突っ込んできた【突撃兎】を回避し、たった今ブレーキを掛けて止まった無防備な【突撃兎】の背中に一発撃ち込んで止めを刺す。
「うん、油断は禁物だな、アイツ結構早いし。」
この後も僕は、アーツの試射を続けた。
次に試したのは『二連射』である。このアーツは、先述の通り2発の銃弾を一瞬の間をあけて連続で撃ち出すアーツである。
このアーツは、確かに2発の銃弾を撃てるのだが、先ほど、【突撃兎】に使ってみて判明した事だが、この二発の一発一発の威力は通常攻撃の約0.8倍なのだ。しかし、この二発両方に攻撃判定があるので、二発とも弱点に命中させることが出来ればかなり強力である。クリティカルヒットは通常攻撃の約2倍なので、上手くいけば1.6+1.6=3.2と『パワーショット』より強力である。だが、少々ギャンブルすぎると思う。
この後他のアーツも試してみたが、あまり収穫は無かった。敵が弱すぎるのである。例えば『ホーミングショット』は、相手が回避行動をとらないので追尾するまでもなく当たる。同じ理由で『精密射撃』も意味をなさなかった。また、『クイックリロード』については、「弾切れ」になるほど戦闘が長引くことがまず無いため、使用すら出来ていない。
「あとは、『遠隔操作』だけだけど…フィールド変えた方が良いかな?」
本格的な攻略エリアである【第1エリア 野獣の森】への移動を本気で考えているときだった。
「そこの方~!逃げて下さーーい!!」
そんな、切羽詰まったような女性の声が聞こえてきた。
「は?」
誤字脱字、文章がおかしいところなどの指摘をして下さると助かります。
修正
×南には、広大な森林が広がっている
○北には、広大な森林が広がっている
『遠隔操作』の設定で、没にした筈の、キーワードについての記述が紛れ込んでいたので、消去致しました。